曝気(読み方:ばっき)処理システムの最適化ガイド|省エネ・高効率化・自動制御技術

工場や事業所の排水処理で重要な 曝気処理システム を、どのように効率よく安定的に運用するかは、コスト削減と環境遵守の両面で大きな課題です。曝気槽で空気を供給し好気性微生物を活性化させ有機物を分解する活性汚泥法は、最も一般的な排水処理手法ですが、そのエネルギー消費は処理施設全体の中でも非常に高く、適切な制御なしでは電力の浪費や処理不良につながります。本記事では、曝気処理の基本原理から装置の種類、さらには省エネルギー化自動制御技術維持管理のポイントまでを分かりやすく解説します。排水管理を担当されている皆様が、曝気システムの見直しや改善のヒントを得られる内容となっています。

目次

曝気処理の基本原理|酸素供給・微生物活性化・有機物分解のメカニズム

曝気処理とは、排水などの液体中に空気(酸素)を供給して水中の酸素濃度を高め、好気性微生物の働きによって有機汚濁物質を分解・浄化するプロセスです。曝気槽ではブロワー(送風機)から空気を吹き込み、微細な気泡として水中に酸素を溶かします。これにより活性汚泥中の微生物が十分な酸素を得て活発に増殖・代謝し、排水中のBODやCODといった有機物を二酸化炭素と水にまで分解します。十分な酸素供給と攪拌によって微生物の働きが最大化され、短時間で高い有機物除去率が得られるのが曝気処理(好気性生物処理)の特長です。

しかし、酸素が不足すると微生物の活動は低下し、処理能力が著しく落ちます。極端な酸素欠乏状態では、嫌気性の微生物が増殖して汚泥が黒く腐敗し悪臭の原因となる硫化水素ガスが発生することもあります。一方で酸素を供給しすぎると、エネルギーを無駄に消費するだけでなく、水中の栄養塩が低い条件下では一部の糸状性菌(好ましくない微生物)が繁殖しやすくなる指摘もあります。したがって、曝気槽内の溶存酸素(DO)濃度を常に適切な範囲(一般には約2 mg/L前後)に維持することが重要です。適正なDO管理により、微生物が「酸素不足」と「過剰曝気」の両方を避けて快適に働ける環境を整えることで、処理性能の安定化と省エネ運転の両立が可能になります。

なお、曝気には悪臭防止の効果もあります。十分な空気を送り込んで水中を好気的に保てば、嫌気性微生物の活動が抑えられて腐敗臭の発生を防ぐことができます。このように曝気処理は、排水中の有機物除去と臭気対策の双方に有効であり、下水処理場から産業排水処理施設まで幅広く採用されています。

曝気装置の種類と特徴|散気式・機械式・ジェット式の比較と選定

曝気処理に用いられる装置にはいくつかの方式があり、それぞれ酸素供給の方法や効率、適用条件が異なります。代表的な曝気装置の種類と特徴は次のとおりです。

  • 散気式曝気装置(ディフューザー方式): ブロワーで圧縮した空気を散気装置(ディフューザー)から水中に放出し、微細な気泡を発生させて酸素を溶解する方式です。気泡が小さいほど水と空気の接触面積と滞留時間が大きくなるため酸素移行効率が高く、一般に散気式は酸素供給効率が優れるとされています。底部に多数の散気管や散気盤を配置して槽全体に均一に空気を行き渡らせることが可能で、大規模な処理槽でも用いられます。ただし、微細孔のディフューザーは長期間の使用で目詰まり(汚泥やスケールの付着)を起こしやすいため、定期的な清掃や交換が必要です。近年はメンブレン(ゴム膜)式など低圧損で詰まりにくい高性能散気管も開発されており、省エネ性とメンテナンス性の両立が図られています。
  • 機械式曝気装置(表面曝気・攪拌式): 水車型やインペラ(撹拌機)によって水をかき混ぜ、水面から空気中の酸素を巻き込む方式です。装置が水面に浮遊または固定され、水を噴き上げたり撹拌することで空気と水を接触させます。散気ブロワーが不要で構造が比較的簡単なため、小規模施設(浄化槽や調整槽)や曝気ラグーンと呼ばれる池型の処理施設などで利用されます。機械式は設置や移動が容易で局所的な曝気にも向きますが、大きな気泡しか発生しない場合は酸素溶解効率が散気式に比べ劣ることがあります。近年では表面曝気と散気を組み合わせて効率向上を図ったハイブリッド型も登場しています。また、水面曝気は水の飛沫や騒音が発生しやすいため、住宅地近くでは防音・防散対策も考慮します。
  • ジェット式曝気装置(エジェクタ方式): 水中ポンプで加圧した水流を特殊なベンチュリノズル(絞りノズル)に通し、その吸引作用で空気を巻き込んで水中に吹き込む方式です。高速のジェット水流とともに空気が微細化されて放出されるため、強力な撹拌効果と高い酸素溶解効率を両立できます。ジェット式は深層水槽や嫌気槽への酸素供給など、従来の散気管では難しい場面でも有効で、固形物の多い液(汚泥消化槽など)への曝気にも適しています。装置は水中に沈めるタイプが多く、散気孔がないため目詰まりしにくい利点があります。ただし、ポンプ動力が必要なぶん装置が大型化し、設置コストが高めになる傾向があります。他にも各社から工夫を凝らしたジェットディフューザー製品が出ており、例えば水流に旋回を与えて気泡をさらに微細化し酸素溶解効率を高めたものなどが存在します。

いずれの方式も一長一短があるため、処理槽の規模や水深、排水特性、既存設備との適合性などを考慮して最適な曝気装置を選定することが重要です。例えば広くて浅い曝気槽では多数の散気管と補助撹拌機の組み合わせ、深いタンクではジェット式の採用、あるいは設備更新時に従来の機械式から省エネ性の高い微細散気方式へリプレースするといった判断が求められます。適切な曝気方式の選択は、処理効率とランニングコストの両面で大きな差を生むポイントです。

曝気システムの省エネルギー化|効率的酸素供給・インバータ制御・最適運転

曝気工程は排水処理プラント全体で消費される電力量の30~60%を占めるとも言われ、いかに省エネルギー化するかが経営上大きな課題です。以下に、曝気システムのエネルギー効率を高め電力コストを削減する代表的な方策を挙げます。

  1. 高効率ブロワの導入: 古いルーツ式ブロワなどは効率が低下している場合が多く、最新の高速ターボブロワや磁気浮上ターボなどに更新することで、同じ風量でも消費電力を大幅に削減できます。例えばモーター効率が高く吐出風量あたりの消費エネルギーが小さいターボブロワは、多少初期コストがかかっても年間電気代削減で十分に元が取れるケースが多々あります。ブロワは曝気槽への空気供給を担う心臓部であり、エネルギーロスの少ない機種への置き換えやインバータ(可変速)制御の付加によって基本動力を下げることが省エネの第一歩です。
  2. 散気装置の効率向上: 供給した空気からどれだけ酸素が溶け込むか(酸素溶解効率, OTE)を高めることで、必要な風量や曝気時間を短縮できます。老朽化した粗泡型の散気管を微細気泡型に更新することは特に効果的で、実際にある施設では散気装置の変更によりブロワ動力を従来の1/3以下に削減できた例も報告されています。また、散気板やホースの目詰まりが性能低下を招いている場合も多いため、定期的な清掃・交換で本来の性能を維持することも重要です。微細散気化と適切なメンテナンスによって、少ない空気量で必要なDOを満たせる効率的な曝気が可能になります。
  3. インバータ+センサーによる風量の自動制御: 排水の流入量や有機物負荷(BOD)は時間帯や生産ラインの稼働状況で変動しますが、負荷変動に関係なく常に一定の空気量で曝気している施設では過剰曝気による電力ロスが生じがちです。そこで、DOセンサーなどを曝気槽に設置してリアルタイムに酸素濃度や負荷状態を監視し、ブロワの風量を自動調節することで「必要なときに必要な量だけ空気を送る」運転が実現します。例えばPID制御によりDOが目標値を下回れば送風量を増やし、上回れば絞るというフィードバック運転とすれば、常に適正なDO値を保ちながら無駄な曝気を抑制できます。米国EPAの試算によれば、このような自動DO制御の導入でエネルギーコストを最大50%削減できたケースもあるとのことです。実際、ある処理場ではDOセンサー制御を導入した結果、年間約6万5千ドル(約700万円超)の電力費削減を達成し、投資回収期間は約2年だったという報告もあります。過剰曝気の解消は省エネだけでなくDO変動の縮小による処理水質の安定にも寄与します。常に過剰気味にエアレーションしている施設では、まずDOモニタリングとインバータ制御導入の効果を検討すべきでしょう。
  4. 嫌気性処理の前段導入: 好気性の曝気処理は高速で確実な反面、大量の酸素供給=電力を要します。一方、嫌気性処理(メタン発酵など)は酸素不要で動力消費が少なく、高濃度有機排水でもBODを大幅に減らすことが可能です。そこで、負荷の高い排水では嫌気タンクを前処理に設置し、有機物の一部を酸素ゼロで処理してしまう戦略が有効です。例えば食品工場排水などBODが数万mg/Lに達するようなケースでは、UASBなど嫌気槽で予め半分以上の有機物を分解し、後段の曝気槽の負荷を軽減することで全体の空気量を削減できます。副次効果として嫌気発酵で発生するメタンガスを回収・エネルギー利用すれば、工場内のボイラー燃料等に活かせる「創エネ」面のメリットも得られます。嫌気処理設備の導入にはスペースや高度な管理が必要ですが、排水特性によっては省エネと廃棄物削減の両立策として検討する価値があります。

以上のように、曝気システムの省エネルギー化には設備更新による効率底上げ運転制御の最適化という両面があります。特にDO管理の適正化は避けて通れない重要テーマであり、単に電気代削減だけでなく処理性能向上や機器寿命延長、人手作業の削減にもつながる「一石多鳥」の取り組みです。現在の運転を見直し、最新技術を取り入れることで、曝気に伴うコストを劇的に削減できる可能性があります。まずは専門家に相談し、自社の排水負荷や設備状況に合った省エネ手法の導入を検討してみましょう。

曝気制御の自動化|DO制御・風量調整・省エネ運転の最適化

上記でも触れた通り、曝気の自動制御は省エネルギーと処理安定化の要です。従来、人手による弁調整やタイマー操作で行っていた曝気量の調節を、センサーや制御機器によってリアルタイムに最適化する取り組みが各地で進んでいます。

最も一般的なのは溶存酸素(DO)センサー連動制御です。曝気槽内のDO濃度をオンラインセンサーで常時監視し、目標範囲(例えば2 mg/L前後)になるようブロワーや送風弁をPID制御する仕組みで、多くの排水処理施設に導入されています。例えばDOが設定値を下回ればブロワーのインバータ回転数を上げて風量を増やし、上回れば自動で絞ることで、24時間体制で過不足ない酸素供給が実現します。自動DO制御により、人間の勘や経験に頼らずとも常に適正なDO環境が維持されるため、処理水質の安定と省エネ運転の両立が可能になります。現場スタッフにとっても、頻繁な機械操作や夜間巡回の手間が減り、トラブル対応に追われるリスクも低減するなど、人件費削減・業務効率化の効果も見逃せません。

さらに近年注目されるのが、負荷に応じた高度な自動制御です。例えば窒素除去を行う施設では、アンモニアセンサーを用いて硝化反応の進行度合いを検知し、それに合わせてDO目標値自体を自動で変化させるアンモニアベースDO制御が実用化されています。負荷が高くアンモニアが多いときはDO設定を高めて曝気強化、逆に負荷が下がればDO設定を下げて省エネ運転するといった具合で、処理状況に応じたきめ細かな空気量コントロールが可能です。このような高度制御により、従来は運転員が判断しきれなかったような微妙な負荷変動にも自動で対応し、エネルギー削減と水質安定化を両立する試みが進んでいます。

自動制御の導入にあたっては、センサー類の信頼性確保や故障時のフェイルセーフ設定が重要です。DO計やアンモニア計は定期的な校正とメンテナンスを行い、万一センサー異常時には手動モードに切り替わるなど安全側に倒す設計にします。また、IoTや遠隔監視システムを組み合わせることで、離れた場所からでも曝気状況を把握・調節できるようになりつつあります。たとえば中小規模の工場で夜間は無人運転とする場合でも、DOと風量の履歴データをクラウド経由で監視しておき、閾値を外れたら通知を受け取る、必要に応じて遠隔操作で介入するといったことも可能です。これにより、少人数でも安心して運転管理が行える体制づくりが期待できます。

このように曝気制御の自動化は、単なる省力化にとどまらず「安定処理」と「省エネ」を両立する鍵となる技術です。特にエネルギーコスト高騰や排水基準の厳格化が進む現在、センサー&インバータ制御を備えたスマート曝気システムへの更新は、多くの処理施設にとって避けて通れない流れと言えるでしょう。導入には初期投資が必要ですが、前述のように数年で十分回収できるケースもあります。将来を見据え、社内の排水処理プロセスを自動制御技術でアップデートすることを検討してみてください。

曝気システムのメンテナンス|散気装置・ブロワー・配管の維持管理

曝気システムを長期にわたり効率良く稼働させるには、各構成機器の定期的なメンテナンスが欠かせません。とくに散気装置(ディフューザー)とブロワー、そしてそれらを繋ぐ配管類は、経年劣化や汚れの蓄積によって性能が低下しやすい部分です。それぞれの維持管理のポイントを確認しましょう。

  • 散気装置の点検・清掃: 曝気槽底に設置された散気管や散気板は、微細孔に汚泥やスケールが詰まりやすく、穴詰まりが起こると空気が出にくくなって酸素供給量が低下します。また長年の振動や水圧でひび割れ・破損が生じるケースもあります。散気装置から均等に気泡が出ているか日常的に観察し、気泡の偏りやエア量低下が見られたら、槽を排水して散気管を洗浄・交換する必要があります。通常、数年~十数年ごとに散気部材の交換時期が訪れるので、メーカー推奨の寿命を目安に計画的な更新を行いましょう。散気部が正常に機能していないと、微生物が十分な酸素を得られず処理性能が落ちるだけでなく、余計な空気を送って電力を浪費することにもなります。
  • ブロワー(送風機)の保守: ブロワーは曝気に不可欠な空気を送り出す装置で、ロータリー式(ルーツ型)やターボ式などがあります。定期的にオイル交換やグリスアップ、ベルトテンション調整(ベルト駆動型の場合)、インレットフィルター清掃などを実施し、効率低下や故障を未然に防ぎます。異常振動や異音、過熱などの兆候があれば早めに点検し、必要ならメーカーにオーバーホールを依頼します。また、ブロワー内部の汚れ(粉塵の付着)は吐出圧力の低下を招くため、エアフィルターの定期交換や吸気経路の清掃も重要です。長期間稼働した旧式ブロワーは新品時より電力当たり風量が落ちている可能性があるため、更新時期を迎えたら高効率機へのリプレースも検討しましょう。ブロワーの良否はそのまま曝気能力と省エネ性能に直結します。
  • 配管・バルブ類の管理: ブロワーから各散気管までの送気配管も、メンテナンス対象です。樹脂製やゴム製の配管は経年で硬化・亀裂が入ることがあり、エア漏れが発生すると所定の空気量が送れなくなります。また、配管内に凝縮水や汚れが溜まると圧力損失が増えてしまうため、ドレン抜きやライン洗浄を行うことも有効です。開閉バルブについても、手動操作する弁は定期的に動かして固着を防ぎ、常開弁も年次点検で全開度を確認します。こうした配管系統の点検により、空気の経路上の無駄や詰まりを取り除き、全ての散気点に均等な空気が供給される状態を維持します。
  • その他設備のチェック: 機械式曝気の場合は**撹拌機(インペラ)の羽根の損傷や軸受の摩耗、モーターの異常などを点検し、異音・振動があれば部品交換や修理を行います。撹拌機が故障すると槽内の混合が不十分になり、デッドスペース(死水域)が生じて汚泥の沈殿・腐敗や処理ムラの原因となります。また、水質計器類(DO計など)を設置している場合は定期校正と清掃を欠かさないようにします。センサーに汚れが付着して正確な値が出なくなると、自動制御も的外れになってしまいます。総じて、曝気槽および周辺機器に違和感を覚えたら早めに対処し、小さな異常のうちに解決することが大切です。

メンテナンスを怠り機器の劣化を放置すると、最悪の場合曝気槽全体の機能停止につながります。例えば散気管が詰まって空気供給が止まれば微生物は数時間で酸欠状態に陥り、処理水質は急激に悪化します。曝気槽は排水処理プロセスの「心臓部」であり、定期的な設備診断と適切な維持管理によってその寿命と性能を守ることが、安定した排水処理の土台となるのです。

今後ますます省エネや環境対応が求められる中、排水処理プロセスの見直し・最適化は事業継続の重要課題となります。株式会社アクトでは、国土交通省や農水省の公的プロジェクトにも技術採用された実績があり、福島第一原発の汚染水処理といった重大案件にも関わっています。累計340社以上がアクトの製品・技術を導入し、水質基準の遵守とコストダウンを両立する成果を上げています。曝気処理の前の前処理としてもアクトの商品が効果を発揮できるかもしれません。廃液処理にお困りの方は是非、アクトにご相談ください。

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