水処理省エネ・カーボンニュートラル対策ガイド|CO2削減・効率化技術

水処理(とくに工場・事業所の排水処理)は多くのエネルギーを消費し、結果としてCO2を排出します。近年、2050年カーボンニュートラル実現に向けて企業にも排出削減が求められ、水処理分野でも省エネによるCO2削減の重要性が高まっています。実際、上下水道分野では年間約5百万トンものCO2を排出し、その約6割が処理施設での電力使用に起因すると報告されています。水処理のエネルギー効率を改善すればコスト削減にも直結するため、排水管理担当者にとって省エネ対策は経営面・環境面の双方で大きな課題です。本ガイドでは、水処理における省エネ・カーボンニュートラル実現に向けた基本から技術動向、再生可能エネルギー活用策、経済性の考え方まで、分かりやすく解説します。

目次

水処理の省エネ基本|エネルギー消費・CO2排出・削減目標・効果測定

まず、水処理プロセスでエネルギーが主に消費されるポイントを押さえましょう。典型的にはポンプによる汚水の移送、送風機(ブロワ)による曝気(ばっき)槽への空気供給、撹拌機による槽内攪拌、脱水機による汚泥処理などが挙げられます。これら機器の電力使用量が積み重なり、水処理全体のエネルギー消費となります。当然、その電力が化石燃料由来であればCO2排出につながります。

水処理分野のエネルギー使用量は決して小さくありません。例えば日本では上水道事業だけでも国内総電力消費量の約0.8%を占めると試算されています。各企業も自社の排水処理に伴うエネルギー使用量・CO2排出量を把握し、省エネの重要性を認識する必要があります。多くの企業が2030年に向けた温室効果ガス削減目標(例:2013年比▲46%など)を掲げており、水処理部門も例外ではありません。まずは現状のエネルギー使用原単位(例:kWh/処理水量)や年間CO2排出量を計測し、自社の削減目標を設定しましょう。処理規模や方式によってエネルギー消費量は異なるため、自施設に適した対策を講じることが重要です。

省エネの効果測定には、改善前後の電力量や燃料使用量の比較が有効です。電力量モニタリング装置やIoTセンサーを活用して設備ごとの消費電力を「見える化」し、省エネ施策の効果を定量的に把握しましょう。例えば、ある措置により処理水1トン当たりの電力原単位が何%削減できたか、CO2排出量が年間で何トン減ったか、といった指標で評価します。定期的にエネルギー使用量やCO2排出量を記録・分析することで、省エネの成果を社内外に報告できるだけでなく、さらなる改善サイクル(PDCA)を回すことができます。

水処理省エネ技術|高効率機器・インバーター・熱回収・最適制御

水処理設備における省エネを実現するための技術や工夫にはどのようなものがあるでしょうか。主なポイントを以下にまとめます。

  • 高効率機器への更新・改善: 老朽化したポンプ・ブロワを省エネ型の高効率機種に更新することで大幅な省電力化が期待できます。また、送風機(ブロワ)は活性汚泥法など有機汚水処理で全消費電力の約8割を占めるとも言われ、供給した酸素の95%以上が未利用のまま大気放出されるケースもあります。そのため、散気管を微細気泡散気タイプに変更して酸素溶解効率を高めることでブロワの負荷を減らし、電力消費を削減できます。実際にブロワ効率を改善すれば大きな電力削減が可能で、送風機の停止時間確保のための増設・ローテーション運転や、オーバーホールによる効率維持も有効です。
  • インバーターの導入: ポンプや送風機、攪拌機などにインバーター(変頻駆動)を設置し、必要な出力に応じてモーター回転数を可変制御することで無駄なエネルギー消費を抑えられます。従来は常に一定速度で運転していた機器も、インバーター制御により流入量や処理負荷に合わせて最適な速度で稼働でき、電力使用量を大幅に低減します。特に流量や負荷変動が大きい設備ではインバーター化の効果が高く、モーターの消費電力量を数割削減できる事例もあります。またソフトスタートによる突入電流低減で機器寿命延長の利点も得られます。
  • 廃熱の回収・利用: 水処理工程で発生する余熱や廃熱を有効利用する工夫も省エネに繋がります。例えば、温度の高い排水や汚泥から熱交換器で熱エネルギーを回収し、他の工程の加温に利用する方法があります。下水処理場では消化ガス発電や汚泥焼却時の排熱ボイラーで発生した熱を場内の暖房や温水に再利用する例があります。同様に工場排水処理でも、排水の余熱をヒートポンプで回収して工場内の給湯や工程用温水に回すことで、ボイラー燃料の節約や冷暖房の補助エネルギーとすることが可能です。こうした熱回収システムを導入すれば、外部エネルギーへの依存を減らしトータルのエネルギー効率を高められます。
  • 運転の最適制御(自動化・IoT活用): センサーや自動制御技術を活用し、リアルタイムで最適な運転を行うことも重要です。例えば溶存酸素(DO)センサーで曝気槽内の酸素濃度を監視し、必要最低限のエアレーションを行うようブロワを制御すれば、過剰曝気によるエネルギーロスを防げます。また工場の稼働が止まる夜間や休日に合わせて送風機やポンプを停止・間欠運転するタイマー制御も有効です。ある工場では、夜間無負荷時に曝気ブロワを停止するタイマーを導入したところ、pH低下トラブルが解消され、省エネにもつながった例があります。近年はAI・IoTによる高度な制御も登場しつつありますが、まずはタイマー設定や簡易な自動制御からでも、必要な時に必要な機器のみ運転するという運用改善で大きな省エネ効果が得られます。

以上のように、機器そのものの効率向上から運用の工夫まで様々な省エネ技術があります。現場ごとに適用できる手法は異なりますが、 「エネルギーロスの原因を突き止め、対策する」 ことが肝要です。送風機やポンプの過剰性能・過剰運転を見直し、適材適所の省エネ機器と最適制御を組み合わせることで、水処理のエネルギー使用は大幅に低減できます。

再生可能エネルギー活用|太陽光・風力・バイオガス・水力の導入

水処理プロセスにおいては、自家消費型の再生可能エネルギーを導入することで、購入電力由来のCO2排出を削減しつつエネルギーコストの低減が可能です。排水処理施設で活用されている代表的な再生可能エネルギーには以下のようなものがあります。

  • 太陽光発電(ソーラー): 排水処理場の敷地や建屋屋上、施設上部の未利用空間にソーラーパネルを設置し、発電した電力を処理設備の電力に充当します。比較的導入しやすい再エネで、多くの施設が採用しています。ある下水処理場ではオンサイトPPA方式で大規模な太陽光発電設備を導入し、施設全体の約30%を再生可能エネルギー電力に置き換えることに成功しました。北九州市の日明浄化センターでは反応タンク上に合計270kWの太陽光パネルを設置(※反応槽上部への100kW超太陽光は国内初)し、年間約25万kWhの発電(約92トンのCO2削減)を実現しています。太陽光発電は導入容量に応じて大幅なCO2削減が見込め、日中の電力を賄うことで電力ピークカットにも寄与します。非常用電源として災害時に活用する取り組みも進んでいます。
  • 風力発電(小型風車): 風力が見込める地域では、小型の風力発電設備を処理場内に設置する例もあります。例えば北九州市では浄化センターに3kW級の小型風車を導入し、年間約0.6万kWhの発電(CO2約2トン削減)を達成しています。大規模な風力タービンは設置環境を選びますが、敷地内に強風が期待できる場合や海沿いの施設では検討の価値があります。ただし発電量は太陽光に比べ小さいため、風況調査を行い導入効果を見極めることが大切です。
  • バイオガス利用: 有機性汚泥や高濃度有機排水を処理する過程で発生するメタンガス(消化ガス)をエネルギー源として活用する取り組みです。下水処理場では嫌気性消化タンクで発生するバイオガスをガスエンジンやガスタービンで燃焼させ、発電や熱供給を行っています。例えばある自治体の消化ガス発電設備では、24時間運転で年間約110万kWhの電力を生み出し、約410トンものCO2削減効果を上げています。工場の排水処理でも食品・飲料系工場など高BODの排水を有する場合、嫌気性処理を導入してバイオガスを回収すれば、自家発電やボイラー燃料として有効利用できます。回収ガスによるコージェネレーション(熱電併給)を行えば、電力と同時に温水・蒸気を供給でき、工場全体のエネルギー自給率向上に繋がります。
  • 小水力発電(マイクロ水力): 水処理施設内の高低差や放流水の落差を利用した小規模な水力発電です。浄化センターの放流口に数kW程度の水車発電機を設置し、24時間連続で発電する仕組みです。例えば放流の落差を活用した1kW規模の小水力発電設備では、年間約0.8万kWhを発電し、約3トンのCO2削減効果を上げています。発電規模自体は小さいものの、継続的に出力できる特長があり、非常用電源の一部に充てることも可能です。処理場への流入水や最終処理水の落差、また工場内の用水配管の減圧弁代替としてインライン小水力を導入する余地がないか検討してみるとよいでしょう。

これら再生可能エネルギーの導入により、排水処理に要する購入電力量を削減し、その分のCO2排出を削減できます。実際、北九州市の日明浄化センターでは太陽光・バイオガス・小水力・LED化等の組み合わせによって施設使用電力の約9%(年間150万kWh)を削減し、合計で年間約560トンものCO2削減を達成しています。このように複数の対策を組み合わせることで大きな効果が見込めます。導入にあたっては初期コストや維持管理も考慮しつつ、利用可能な補助金制度(後述)も活用して計画を進めましょう。

水処理カーボンニュートラル|CO2削減・オフセット・認証・報告

水処理プロセスにおけるカーボンニュートラルとは、「排水処理に関連するCO2排出を実質ゼロにする」ことを指します。その実現に向けては、大きく次のステップが重要となります。

  1. CO2排出量の削減(創エネ含む): 第一に、前述の省エネ技術導入や再エネ活用によって、排水処理で排出する温室効果ガスを極力削減します。具体的には、電力由来のCO2排出を減らすために省電力化・再生可能エネルギー電力への転換を進め、燃料使用設備があれば高効率化や代替エネルギー化を検討します。また、廃液そのものの発生抑制(例:水の再利用による処理量削減)も間接的な排出削減につながります。設備起因だけでなく、運用面・プロセス面から総合的に排出源を減らす努力が重要です。
  2. 残余排出のカーボンオフセット: どうしても削減しきれない排出については、カーボンオフセットの手法で埋め合わせます。具体的には、他所で創出された排出削減量・吸収量をクレジット(信用)として購入・活用し、自社の排出を相殺します。日本では「J-クレジット制度」が整備されており、企業が省エネ設備導入や森林整備等で達成したCO2削減・吸収量を国が認証しクレジット化しています。必要な分のクレジットを取得して自社排出と差し引きすることで、ネットゼロ(実質ゼロ排出)を実現できます。オフセット手段としてはJ-クレジットのほか、国内外の排出権取引市場からのクレジット購入、植林事業への出資によるカーボン・オフセットなど様々な選択肢があります。
  3. カーボンニュートラル認証の取得・情報開示: 自社がカーボンニュートラルを達成したことを対外的に示すには、公的な認証を取得する方法があります。環境省では「カーボン・ニュートラル認証」という制度を設けており、組織のカーボンニュートラルの取組が基準を満たすか第三者機関が審査し、認証を付与しています。この認証を受ければ、自社の達成状況を社内外へアピールしやすく、カーボンオフセットや環境報告、CSR活動にも活用可能です。認証取得は中小企業でも導入しやすい信頼性の高い手段とされており、自社の環境ブランド力向上にも寄与します。また、カーボンニュートラルを達成・維持する中で、毎年の温室効果ガス排出量を算定し国や自治体へ報告することも重要です。日本では「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」により一定規模以上の事業者に毎年の排出量報告が義務付けられています。自社の排出状況と削減努力、オフセット状況をしっかりと開示することで、利害関係者の理解・信頼を得ることができます。加えて、国際的なイニシアティブ(SBT(Science Based Targets)やRE100等)へのコミットや環境報告書での公表も、企業の社会的評価につながるでしょう。

以上のステップを踏むことで、水処理分野でカーボンニュートラルを達成することが可能になります。まずは削減ありきで最大限の削減努力を行い、どうしても残る部分のみをオフセットするのが基本方針です。そしてその取り組みを見える化し、認証や報告によって社外に発信することで、企業価値向上や環境リーダーシップの発揮にもつなげていきましょう。

省エネ投資の経済性|初期費用・削減効果・投資回収・補助金

省エネ・CO2削減対策を検討する際には、その投資に対する経済性(費用対効果)を評価することが大切です。特に設備の新規導入や更新が必要な場合、初期投資コストランニングコスト削減効果のバランスを把握し、投資回収期間(ROI: Return on Investment)を見積もりましょう。

例えば、省エネ型の機器導入によって年間100万円の電力コスト削減が見込める場合、初期費用が500万円なら回収期間は約5年となります。削減効果が大きい対策ほど早期に費用をペイでき、以降は削減分が純粋なコストメリットとして享受できます。

もっとも、大規模設備の更新などは初期費用も高額になりがちです。そこで積極的に活用したいのが国や自治体の省エネ補助金です。現在、経済産業省や環境省などの所管で企業の省エネ投資を支援する補助金制度が数多く用意されています。補助金を活用することで導入時の初期費用の一部を賄うことができ、企業の負担を軽減して投資回収年数を短縮できます。たとえば補助率1/3の制度を使えれば、先ほどの500万円の設備は実質約333万円の自己負担となり、ROIも約3.3年から2.5年程度に短縮されます。補助金により最新の省エネ技術を導入しやすくなり、結果的にエネルギーコスト削減で競争力強化や長期的な収益改善にもつながるため、是非アンテナを張って活用しましょう。

また、省エネ投資の検討にあたっては定性的なメリットも考慮すべきです。エネルギー効率化やCO2削減の取り組みは、取引先や地域社会から環境意識の高い企業として評価され、ブランドイメージ向上やESG投資の観点からプラスに働く可能性があります。さらに、省エネ設備はしばしば最新技術を伴うため、生産性向上や設備の信頼性アップといった副次効果をもたらす場合もあります。単純なエネルギー費削減額だけでなく、こうした非財務面での効果にも目を向けることで、省エネ投資の価値を総合的に判断できます。

総じて、排水処理分野での省エネ・カーボンニュートラル対策は「環境貢献=コスト増」ではなく、「環境貢献=コスト削減」につながるケースが多く存在します。適切な投資判断と公的支援の活用によって、経済的に無理なく脱炭素化を進めることが可能です。

アクトの省エネ実績|大幅削減・カーボンニュートラル達成の成功事例

最後に、弊社株式会社アクトが手掛けた排水処理の省エネ・環境改善事例をご紹介します。アクトは無機系凝集剤「水夢(スイム)」を中心とした独自技術により、多様な産業排水の課題を解決しつつ、コスト削減と環境負荷低減を同時に実現してきました。ここでは、その中から特に顕著な効果が得られた成功事例を2つ取り上げます。

  • 導入事例①:外壁パネル製造業 T社 – 水性塗料の洗浄廃水を処理していたT社では、従来は特殊顔料を含む廃液を全量産業廃棄物として処理し、年間約720万円ものコストがかかっていました。アクトの凝集剤「水夢」専用処方と小型処理装置「ACT-200」を導入した結果、処理コストは年間約250万円と65%削減されました。初期投資も約1.5年で回収できています。環境面では、廃液発生量が月20トンから1トンへ約95%削減され、廃液運搬に伴うCO2排出量も年間約5トン削減することができました。処理後の水は全項目で排水基準をクリアし、社内の環境目標達成にも大きく貢献しています。
  • 導入事例②:鉄鋼加工業 K社 – 金属部品加工で生じる水溶性切削油廃液の処理に悩んでいたK社では、頻繁な切削液交換で廃液が月15トン発生し、年間約600万円の処理費用がかかっていました。アクトは油分除去に適した凝集剤「水夢CO-5022MG」とACT-200装置による処理をご提案し採用いただきました。その結果、処理コストは年間約240万円と60%削減し、投資回収期間は約1.3年と非常に短期間で費用を回収できました。廃液量も月0.8トン程度まで圧縮(約95%削減)され、CO2排出量も年間約4トン削減しています。さらに長年問題だった廃液の悪臭も完全に解消し、作業環境が大幅に改善されました。従業員からも「臭気がなくなり快適になった」と好評で、生産性向上にも寄与しています。

上記の事例はいずれも、従来は処理困難でコスト負担・環境負荷の大きかった排水が、アクトの技術導入によって劇的な改善を遂げたものです。コストを50~70%削減しながら廃液発生やCO2排出を大幅カットできる点は、多くの企業様にとって理想的な解決策と言えます。実際、アクトの凝集剤「水夢」と関連ソリューションは340社以上の企業に採用され、重金属廃水や塗料廃水など様々な業種の廃液処理課題を解決してきました。その導入実績には官公庁や公共事業も含まれており、アクトの製品と技術の高い品質・信頼性の証ともなっています。私たちは「産業の発展と環境保全の両立は可能である」という信念のもと、お客様それぞれのニーズに合わせた最適な処理プロセスを提供し、コスト削減とカーボンニュートラルへの貢献をこれからも実現していきます。

以上、水処理分野の省エネ・カーボンニュートラル対策について、その基本から具体的手法、そして実例まで包括的に解説しました。省エネによるCO2削減は、環境保全のみならず経費節減にも直結する「攻めの環境対策」です。ぜひ本ガイドの内容を参考に、貴社の排水処理システムの見直しや改善にお役立てください。環境と経営の両面で効果を発揮する省エネ施策を取り入れ、持続可能な企業活動と美しい水環境の実現を目指していきましょう。

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