溶存酸素(DO)とは?測定方法・管理基準・改善技術を専門家が解説

工場や事業所の排水処理において「溶存酸素(DO)」は、非常に重要な管理項目です。溶存酸素(DO)とは水中に溶け込んでいる酸素の濃度を指し、排水中の微生物による汚濁物質の分解や水質維持に深く関わります。本記事では、溶存酸素の基本定義から測定方法、DO値を左右する要因、業界別の管理基準、効果的な改善技術、異常時の対応策、さらには適切なDO管理によるコスト削減効果までをわかりやすく解説します。最後に株式会社アクトの技術力とDO管理ソリューションの実績も紹介しますので、工場排水のDO管理にお悩みのご担当者様はぜひ参考にしてください。

目次

溶存酸素(DO)の基本定義と重要性

溶存酸素(DO:Dissolved Oxygen)とは、水中に溶け込んでいる酸素の量を指す指標です。単位はmg/L(水1リットル中に溶けている酸素のミリグラム数)で表されます。空気中には大量の酸素がありますが、水に溶け込める酸素の量には限りがあり、その上限値は水温や気圧によって変化します(一般に水温が高いほど酸素は溶けにくく、飽和DO値も低下します)。例えば、一般的な水道水をDO計で測ると約8~9 mg/L(飽和に近い高い値)になりますが、地下水では酸素が消費されてほぼ0 mg/Lということもあります。このようにDOは「水中にどれだけ酸素が溶けているか」を示す基本指標なのです。

では、なぜ排水処理でDO管理がそれほど重要視されるのでしょうか。【活性汚泥法】など好気性微生物を使う排水処理では、微生物が酸素を呼吸しながら有機物を分解して水を浄化します。そのため曝気槽(好気性処理槽)内のDO濃度が適切かどうかで、微生物の働き(汚濁物質の分解能力)が大きく左右されます。DOが低すぎる場合、酸素不足で微生物の活動が鈍り、有機物の分解が進まなくなります。さらに酸素を必要としない嫌気性の微生物が増えてしまい、汚泥が黒く腐敗して悪臭が発生することもあります。最悪の場合、微生物が大量死し浄化機能が著しく低下します。一方、DOが高すぎる場合、微生物の活動そのものには問題ありませんが、必要以上に空気を送り込むことでブロワ(送風機)の電力を無駄遣いしている状態になります。このようにDOは低すぎても高すぎても望ましくなく、常に適切な範囲(一般的に約1~3 mg/L)に維持することが重要です。適切なDO管理により、処理性能の安定化と省エネ運転の両立が可能になります。

DO測定方法と測定機器の選び方

排水中のDOは、専用の溶存酸素計(DO計)を用いて測定します。現場で継続的に監視する場合は、隔膜電極式(電気化学式)や蛍光式(光学式)などのDOセンサーを曝気槽などに設置し、リアルタイムでDO値を監視します。多くの排水処理施設では、このセンサーの測定値をブロワのインバータ制御に連動させ、DO濃度が設定範囲になるよう自動調節しています。例えばDOが目標より下がればブロワの風量を増やし、上がりすぎれば風量を絞るといったフィードバック制御で、常に適正なDO値を保つ工夫がされています。この自動DO制御により処理水質を安定させつつ、省エネ運転も実現できます。

一方、簡易な測定にはポータブルDOメーターも広く使われます。こちらは現場や水槽にプローブ(センサー)を浸けて即座にDOを測れる機器で、排水のスポットチェックや環境水の調査などに便利です。DO計には主に隔膜式センサー蛍光式センサーの2種類があります。隔膜式(電極式)はガルバニ電池法やポーラログラフ法とも呼ばれ、酸素透過膜(メンブラン)の内部に電解液と電極を備え、酸素が膜を透過して電極で反応することで電流を計測します。隔膜式センサーは構造が比較的安価ですが、定期的なメンブラン交換電解液の補充・交換が必要になるなどメンテナンス手間がかかります。一方、近年普及している蛍光式DOセンサー(光学式)は、酸素濃度によって発光特性が変化する特殊な膜(蛍光物質を塗布したキャップ)を用い、光のやり取りで酸素量を検知する方式です。蛍光式は酸素を消費せずに測定できるため、水が流れていない静止状態でも正確な値を示し、電極を振る必要もありません。また隔膜や内部液が無いぶん部品交換の頻度が少なく、一般に一年に一度程度のセンサキャップ交換だけで済むなど維持管理が容易です。ただし蛍光式センサー本体の価格は隔膜式より高価になる傾向があります。測定環境に応じて、「水中に長期間設置して連続監視するなら頑丈で安定性の高い光学式」「簡易チェック中心ならコスト重視で電極式」といった選定が行われます。なお、分析室レベルではウインクラー法(ヨウ素滴定による化学的手法)などもDO測定に用いられますが、現在では現場で即応性のあるセンサー法が主流です。

測定機器の選び方のポイントとしては、まず現場での使用か実験室内か、オンライン監視か手動測定かを判断します。現場の曝気槽等で常時計測する場合は、防水性・耐久性の高いプローブと連続モニターが必要です。一方、実験室で水質試験に使う場合は卓上型でコンパクトな機器が扱いやすく、場合によっては試薬を使う分光法(吸光光度計)による高精度分析も選択肢になります。次に隔膜式と蛍光式のどちらにするかですが、前述の通りメンテナンス性では蛍光式に軍配が上がります。最近では電極式でも性能向上が図られていますが、流速依存性(水が動いていないと酸素が電極に供給されにくく指示値が低めに出る傾向)の問題もあり、低流速環境では光学式の方が安定した値が得られます。またDO以外の項目(pHや電気伝導度など)もまとめて測定したい場合は、複数センサー一体型の多項目測定器が便利です。このように、用途と環境に適したDO計を選ぶことで、正確な測定と効率的な管理が可能になります。不明点があれば計測機器メーカーや専門業者に相談し、最適な機器を導入すると良いでしょう。

DO値の変動要因と影響因子

排水処理プロセスにおけるDO濃度は、様々な要因で上下します。DO値が目標からずれる原因を理解し、適切な対策を講じることが安定運転の鍵です。ここではDO値の変動要因となる代表的なものを紹介します:

  • 有機物負荷の変動・増加:流入する排水中のBODやCODが高くなると、それだけ微生物が酸素を消費する量(有機物分解に必要な酸素)が増えます。生産工程の変更や事故により想定以上の有機汚濁負荷が流入すると、酸素供給が追いつかずDO低下(酸素不足)を引き起こしがちです。例えば、食品工場で仕込み量が増えた、化学工場で排水組成が変わった等で負荷が上がるケースが該当します。
  • 微生物量(MLSS濃度)の過剰:活性汚泥槽中のMLSS(混合液浮遊物質濃度)が高すぎる場合もDO不足の原因となります。汚泥濃度が必要以上に高いと、その分微生物群が酸素を大量に消費します。また汚泥が過密状態になることで曝気効率が低下し、酸素が行き渡りにくくなることも考えられます。適正な汚泥濃度管理(不要な余剰汚泥の引き抜きなど)が重要です。
  • 曝気量の不足:ブロワ(送風機)の能力不足や運転設定によって、単純に供給される空気量(酸素量)が足りない場合、DOは低下します。例えば設備の設計時点では1台のブロワで足りていたものの、生産拡大で処理量が増えて今は風量不足になっている、といった状況です。またブロワ自体に不具合が発生して風量が落ちている場合や、誤操作で風量設定が低くなっている場合もDO不足につながります。
  • 散気装置の目詰まり・劣化:曝気槽の底部に設置された散気管やディフューザーが目詰まりを起こすと、空気の気泡が大きくなったり一部しか出なくなったりします。その結果、酸素の水中への溶解効率が低下し(後述するように気泡が大きいほど酸素移行効率は悪化します)、十分なDO濃度が確保できなくなります。散気装置の定期清掃や交換を怠ると起こりやすい問題です。
  • 水温や気圧など環境条件:水温が高い夏場は、水への酸素の溶解度自体が低下します。同じ空気供給量でも冬より夏の方がDOは上がりにくく、特に暑い時期にはDO低下傾向に注意が必要です。実際、夏場は冬場と同じブロワ運転ではDOが不足気味になることが多く、季節による水温変化を考慮したDO管理が必要とされます。また標高が高い場所では大気圧が低く酸素分圧が小さいため、水中の飽和DOも若干低くなります。ただし工場排水レベルでは水温の影響が最も大きく、「夏場はDOが下がりやすい」と覚えておくと良いでしょう。
  • その他の要因:排水中に溶け込んだ他の気体(例えば発酵により発生する二酸化炭素やメタンなど)が多いと相対的に酸素溶解が阻害されることがあります。また、表面に張った泡や油膜が酸素の拡散を妨げDO低下を招くケースもあります。さらに、活性汚泥中の毒性物質によって微生物が死滅した場合、一時的に酸素消費が減ってDOが上昇することもありますが、処理機能低下という別の問題を引き起こします。いずれにせよ、DO変動の背景には「酸素供給と消費のアンバランス」があります。定常状態でDOが低すぎる場合は、上記のどの要因が該当するかを点検し、必要な対策を講じることが大切です。

以上のような要因を踏まえ、日常的にDO値と関連パラメータを監視しましょう。例えば、BOD負荷や処理水量の増減、汚泥濃度、ブロワ風量計、散気圧力(水深や詰まり具合による圧の変化)、水温などを見える化しておくと原因解析に役立ちます。経験上、「いつもと同じ運転なのに最近DOが下がり気味だ」と感じたら、まず散気装置の詰まりを疑う、夏場なら水温上昇を考慮する、といった対応が有効です。的確に原因を突き止めて対策することで、DO不足による処理トラブルを未然に防ぐことができます。

業界別DO管理基準と目標値

排水処理におけるDO管理には、一般的な目安や業界・用途ごとの目標値があります。まず活性汚泥法をはじめとする好気性処理では、前述の通りDOを約2 mg/L以上に保つことが一つの基準とされています。実際、多くの教科書や技術資料には「曝気槽内DOは2.0 mg/L以上が望ましい」といった記述が見られます。現場でも経験的に1~3 mg/L程度が適正範囲とされ、1 mg/Lを下回ると処理不良や悪臭の兆候が出やすいため注意が必要です。逆に4 mg/Lを超えるような高いDOは通常必要なく、エネルギーコスト増につながるだけなので避けます。したがって、2 mg/L前後を目標に、プロセスに応じて1 mg/L以上3 mg/L以下の範囲で制御するのが一般的です。

ただし、この目標値は処理プロセスや業界によって微調整されます。例えば、排水中に窒素成分が多く含まれ、硝化(アンモニアを硝酸に酸化するプロセス)を行う場合は、硝化菌が十分活性を発揮できるようDOをできるだけ2 mg/L以上に維持することが推奨されます。硝化反応は酸素消費量が大きく、DOが1 mg/Lを下回ると急激に反応速度が低下するためです。実際、多くの下水処理場では硝化槽のDO目標値を約2~3 mg/Lに設定しています。また、食品工場など高濃度有機排水を扱う施設では、BOD除去がメインでも負荷が高いため1 mg/L台では不足しやすく、常時2 mg/L程度確保する運転が取られることがあります。一方、電子部品工場など比較的低BODで窒素も少ない排水では、1 mg/L程度でも処理が安定するケースもあります。このように、自社排水の性状と処理目的に合わせて最適なDO目標を見定めることが重要です。

環境規制の観点では、実は日本の排水基準そのものにDO濃度の規定はありません。排水の水質規制はBODやCOD、pH、窒素・リン濃度など汚染物質の排出基準が中心であり、DOは直接の規制項目ではないのです。これは、たとえ排水中のDOを高く保って放流しても、BOD・CODが高ければ受け入れ側の環境に負荷を与えるため、DO値自体で規制しても意味がないからです。したがって、排水処理担当者が注力すべきは処理過程でのDO管理であって、放流水のDO値は規制されません。ただし、放流先の公共水域の環境基準としてはDOの目標値が定められています。環境省の生活環境項目の環境基準では、水域の類型ごとに1日平均DOが5 mg/L以上(水産3級の水域等)や7.5 mg/L以上(水道1級や水産1級の良好な水域)などの目標値があります。例えば、人の飲用や水産生物の生息に適した河川ではDO7.5 mg/L以上が基準となっており、最低でも5 mg/L以上は維持することが求められます。また湖沼や海域でも貧酸素化対策として底層DO2 mg/L以上などの目安が示されています。これは排水そのものの規制ではなく、水環境の目標ですが、事業者にとっても「放流水が受け入れ先で極端なDO低下を引き起こさないようにする」配慮が望まれます。

さらに養殖業界水族館など魚類を扱う業界では、DO管理基準がまた異なります。一般に魚類が健康に生息するには5 mg/L以上のDOが必要とされ、3~4 mg/Lを下回るとストレスや生育阻害が起こり、2 mg/L以下では多くの魚種で死亡リスクがあります。養殖池ではエアレーション(曝気装置)によりDOを7~8 mg/L程度まで高めていることもあります。また飲料水製造などの分野では逆に水中の溶存酸素が味や品質に影響するため、必要に応じて脱気(DO除去)工程を設けている場合もあります。

以上をまとめると、「DO管理の基準」は用途によって様々ですが、排水処理においては2 mg/L前後を目安にしつつ、自社の処理プロセスや目標水質に応じて調整するのが現実的です。最低ラインとして1 mg/Lを割り込まないよう注意し、余裕があれば2 mg/L程度確保する運転を心がけましょう。DO値は高ければ高いほど良いものではなく、適正範囲に収めることが重要という点を常に念頭に置いてください。

DO改善技術(曝気・酸素供給システム)

排水処理でDOが不足しがちな場合、あるいはより効率的に酸素供給したい場合に活用できるDO改善技術について解説します。DO改善の基本は、ズバリ曝気(エアレーション)の工夫です。空気中の酸素をいかに効率よく水に溶け込ませるかがポイントとなります。以下、代表的な技術と対策を紹介します。

  • 曝気量の調整と増強:もっとも直接的な対策は、ブロワから送り込む空気量を増やすことです。送風機の回転数を上げる、ノズルや配管を増設する、あるいは追加のブロワを設置するといった方法です。ただし前述のように、むやみに空気量を増やしても酸素溶解効率が低ければ期待したほどDOは上がりません。既存の散気装置に対して過剰な風量を与えると、気泡が粗大化して酸素移行効率がさらに低下してしまいます。そのため、送風機を増設・強化する場合は散気装置側の対応(後述の微細化など)もセットで検討すべきです。
  • 微細散気(ファインバブル)技術の活用:DO改善には「酸素をいかに溶けやすくするか」が重要です。その鍵となるのが気泡の大きさです。一般的な曝気では多数の気泡が発生しますが、一つ一つの気泡が小さいほど水中での浮上速度が遅く、気泡表面積も相対的に大きくなるため、酸素が水に溶け込む効率が高まります。逆に気泡が大きいとすぐ水面に抜けてしまい、酸素がほとんど水に移行しないまま逃げてしまいます。実際、従来型の曝気では投入した酸素のうちわずか3%程度しか微生物に利用されず、残り97%は未溶解のまま大気へ放出されているとの報告もあります。そこで効果的なのが微細気泡を発生させる散気装置(ファインバブル発生器)の導入です。例えば、従来の散気管やエアストーンを微細孔ディフューザーに交換することで、発生する気泡径を小さくできます。東産業の事例では、特殊な曝気ポンプ方式から微細気泡型散気筒+送風機に変更し、慢性的だった酸素不足が解消したケースがあります。また別の工場では散気筒を微細化タイプに更新することで、送風機の稼働率を下げつつDO不足を解決し、電力消費量を以前の1/3以下に削減することにも成功しています。このように、酸素溶解効率の高い散気装置へリプレースすることは、DO改善と省エネの両面で非常に有効な手段です。微細散気装置には各種タイプがあり、排水の性質や槽形状に合わせて最適なものを選定する必要があります。導入に際しては信頼できるメーカーや専門業者に相談し、自社の状況に合った機種選定・設計を行うとよいでしょう。
  • 酸素富化・純酸素の供給:通常は空気中の酸素(約21%)を利用しますが、さらにDOを上げたい場合は高濃度酸素ガスの供給も考えられます。具体的には、液体酸素やPSA式酸素発生装置で得た酸素を曝気槽に直接吹き込む、純酸素曝気システムです。この方法は高度処理や養殖などで用いられることがあります。例えば魚の養殖水槽では酸素濃縮機から純酸素を送りDOを高く維持します。また一部の産業排水処理で、高負荷対応のため純酸素エアレーションを導入した例もあります。ただし設備コストやランニングコストが高くなるため、通常は空気曝気の効率化(前述の微細化など)で対処し、それでも不足する場合の最終手段と位置付けられます。
  • 表面曝気・機械式曝気の利用:曝気方法は空気の散気以外にも、表面曝気といって撹拌翼で水面に空気を巻き込むタイプもあります。浄化槽や小規模施設ではインペラ(羽根)が回転して水を噴き上げる機械式曝気機が使われ、これも水と空気を接触させDOを上昇させます。散気と表面曝気を併用すると、水槽全体の撹拌も強化できて酸素供給ムラが減るメリットがあります。特に調整槽などで溶存酸素を一定以上に保ち循環させることで、後続の好気槽で急激なDO低下を防ぐ効果も期待できます。
  • 散気装置・設備の維持管理:ハード面の改善だけでなく、既存設備をベストコンディションに維持することもDO改善につながります。例えば散気管の定期清掃・交換は先述の通り重要です。スケールや生物膜で目詰まりした散気膜は早めに交換し、常に設計通りの微細気泡が発生する状態を保ちましょう。ブロワについても、フィルターの清掃やベルト張力の点検などで性能低下を防ぎます。配管から漏気があれば修理し、必要に応じて逆洗(エアバッキング)など散気孔詰まりを解消する手段も講じます。設備の予防保全を徹底することで、結果的に安価にDO改善・安定化が図れます。
  • 化学的酸素供給剤の活用:応急措置的な技術として、過酸化水素(H₂O₂)などの薬剤を用いて水中に酸素を供給する方法があります。過酸化水素は分解すると水と酸素になるため「環境に優しい酸素供給剤」として注目されており、水質事故や魚類被害防止の緊急対策で池や湖に投入されることもあります。薬剤使用はコストが高く継続的な手段にはなりませんが、急場しのぎのDO不足解消や、どうしても設備増強が難しい場合の補助的策として検討されることがあります。使用にあたっては水質や生物への影響、安全管理にも留意が必要です。

以上、DO改善の主な技術を見てきました。要点は、「必要な酸素量を確保しつつ、無駄なく水に溶け込ませる」ことです。現在の施設でDO不足が慢性化しているなら、単純な空気量アップではなく、ぜひ酸素移行効率の改善策を検討してみてください。微細散気化や適切な設備更新によって、多くの現場で驚くほど簡単にDOが改善し、しかも電力コスト削減というおまけも付いてきます。DO管理技術は日進月歩で進化していますので、情報収集しながら自施設に最適なソリューションを取り入れましょう。

DO異常時の緊急対応プロトコル

排水処理において突然DOが大きく低下した、あるいは上昇し過ぎたといった異常事態が発生した場合、迅速な対応が求められます。特にDO急低下(酸欠状態)は微生物へのダメージが大きく、放置すると処理プロセス全体の崩壊につながりかねません。ここでは、DO異常時の応急対応プロトコルをステップごとに整理します。

  1. 原因の即時確認:まずDOセンサーの値が本当に異常かを確認します。センサーのキャリブレーション不良や汚損がないかチェックし、必要に応じて別の測定器でDOを二重確認します。値が実際に低下している場合、並行して現場の状況を点検しましょう。ブロワは正常稼働しているか、散気装置から均一に気泡が出ているか、汚泥の色や臭気に異変はないかなどを素早く観察します。例えばブロワが停止していれば原因は明白ですが、動いているのにDOが下がったなら負荷増大や散気不良など複合的要因が疑われます。
  2. 短期的な酸素供給の増強:原因究明と並行して、直ちに酸素供給量を増やす応急措置を取ります。具体的には、ブロワの予備機があれば起動し風量を増加させます。予備がない場合は、ブロワの回転数(インバータ設定)を可能な範囲で上げます。それでも足りなければ、一時的に消防ポンプや可搬式エアレーターを投入して空気を送り込むことも有効です。水面撹拌用の曝気装置があれば併用し、できる限り短時間でDOを回復させます。水槽が複数ある場合は、酸素不足の槽に他槽から高DOの液を循環移送する応急措置も考えられます。また緊急手段として過酸化水素の添加(慎重に希釈して投入)により化学的に酸素を補給することも検討されます。ただし薬剤投入は一時しのぎであり、微生物への急激な影響もあり得るため、あくまで他に手段がない場合の最終措置です。
  3. 負荷側の抑制:可能であれば排水の負荷を一時的に低減します。例えば工場の生産ラインからの排水排出を一時ストップまたは減量してもらう、高濃度の排液は一時タンクにバッファしてもらうなどです。流入負荷を絞ることで微生物の酸素需要を下げ、DO低下の進行を食い止めます。現場判断で難しければ、上長や生産部門と速やかに連絡を取り協力を仰ぎます。
  4. 設備の点検と復旧:応急的に酸素を送りながら、並行して設備トラブルの復旧に当たります。ブロワ故障なら予備機への切替や修理手配、散気管詰まりならエアバック洗浄や急ぎ交換できるか検討します。汚泥が沈殿していたり泡だらけになっていた場合は、攪拌して均一に戻すなど槽内環境を整えます。pHや毒物の流入が原因なら中和や希釈を行います。
  5. モニタリングと徐行運転:応急措置後も、しばらくはDO値の厳重モニタリングを続けます。目標範囲に戻った後も安定するまで気を抜かず観察し、徐々に通常運転へ戻します。いきなり元の負荷に戻すと再度DOが落ちる可能性もあるため、慎重に段階復旧します。微生物がダメージを受けている場合は、負荷を抑え気味にしつつ栄養塩を補給するなど生物のリカバリーにも気を配ります。
  6. 恒久対策の検討:緊急事態を乗り切った後は、改めて再発防止策を検討します。今回のDO異常の原因が設備容量不足ならブロワ増設や散気強化、負荷増が原因なら前処理強化や運転条件見直し、といった具合に恒久対策の計画を立てます。社員間で情報共有し、異常兆候があれば早期に手を打てるようマニュアル化しておくことも大切です。

以上がDO異常時の一般的なプロトコルです。特にDO不足は、時間経過とともに汚泥の腐敗・悪臭発生処理水質の急激な悪化を招くため、まさに一分一秒を争う対応が必要です。日頃から非常時の手順をシミュレーションし、予備機の整備や測定器の準備、緊急連絡先の確認など備えておきましょう。迅速・的確な対応によって被害を最小限に食い止め、処理プロセスを健全な状態に戻すことがDO管理者の腕の見せ所です。

DO管理によるコスト最適化効果

適切なDO管理は、水質や処理安定だけでなくコスト面でも大きなメリットをもたらします。ここでは、DOを管理することで得られるコスト最適化効果について解説します。

まず注目すべきはエネルギーコストの削減です。排水処理場における電力使用量の中で、ブロワ等の曝気に関わる設備が占める割合は非常に高く、一般的に全体の40~50%に達すると言われています。言い換えれば、曝気の効率化は施設全体の省エネに直結します。DO管理を行わず常に過剰曝気していると、必要以上の電力を浪費している可能性があります。例えばDO目標を適正な2 mg/L程度に設定し、自動制御で過剰曝気を抑制するだけでも、年換算で大幅な電気代節減が期待できます。実際に、とある処理施設ではDOセンサー制御を導入したところ年間65,000ドルの電力コスト削減(約2年で投資回収)を達成した例も報告されています。また前述したように、微細散気装置への更新によりブロワ電力を1/3以下に減らせたケースもあります。このようにDO管理や酸素供給効率の改善は、驚くほどの省エネ効果につながることがあるのです。

次に薬品コストや補修費の低減も挙げられます。DOが不安定だと、汚泥の膨化や腐敗を防ぐために消毒剤や消臭剤を追加投入したり、トラブルで汚泥を抜き替えたりと余計な費用が発生しがちです。逆にDOが適正に保たれていれば、そうした対症療法的な薬品投入が減り、汚泥処理も計画的に行えるためコスト削減につながります。また、安定したDO環境下では微生物が健全に働くため、処理水質が向上して放流水の規制超過による罰則や追加処理費用を回避できます。安定運転は信頼性向上にも寄与し、製造工程の停止リスク低減による機会損失防止という観点でもコストメリットがあると言えるでしょう。

さらには設備の長寿命化効果もあります。例えば過剰曝気が続くとブロワは常に最大運転となり、摩耗や故障のリスクが高まります。しかしDOセンサー連動で必要なときだけ全開運転し、それ以外は絞るようにすれば、ブロワの平均負荷が下がり機械的ストレスが減ります。その結果、オーバーホール周期の延長や機器寿命延長が期待できます。同様に散気管も負荷に見合った運転で汚れにくくなり、詰まりの進行を遅らせる効果があるかもしれません。省エネ=機器への優しさでもあるのです。

さらに付随的な効果として、人手コストの削減も見逃せません。DO管理が適切に行われ自動化されていれば、頻繁な現場巡回や手動操作の手間が減ります。担当者はトラブル対応に追われることなく、より計画的な業務に時間を割けるようになります。例えば、ブロワのON/OFFや弁調整を自動化した結果、夜間の見回り回数を減らせたといった例もあります。人的リソースの効率化は、目には見えにくいですが重要なコストメリットです。

最後に、DO管理をしっかり行って処理効率を高めれば、将来的な設備増強投資を先延ばしできる可能性もあります。例えば「現状の曝気槽容量で処理しきれず新設が必要」となる前に、DOコントロールで既存設備の処理能力を引き出せれば、大きな設備投資を回避できます。このように、DO管理には短期的な運転コストの削減から中長期的な資本コストの抑制まで幅広い経済的メリットがあるのです。

以上をまとめると、適切なDO管理は「安定した水質確保」という本来目的だけでなく、「省エネ」「省コスト」「設備寿命延長」「人件費削減」といった多面的な効果をもたらします。排水処理全体のトータルコスト最適化の観点からも、DO管理は避けて通れない重要テーマと言えます。適切なDO管理は、環境にもお財布にも優しい「Win-Win」の取り組みなのです。

アクトのDO管理ソリューション実績

ここまで溶存酸素(DO)管理の基礎から応用まで説明してきましたが、「では具体的にどう改善すれば良いのか分かったが、自社で対応できるか不安」という方もいるかもしれません。そこで最後に、私たち株式会社アクトの技術力と、DO管理に関連するソリューションの実績についてご紹介します。

株式会社アクトは、水処理・排水処理の分野で20年以上の研究開発とソリューション提供の実績を持つエキスパート企業です。これまでに1,000社以上の排水課題に向き合い、延べ10,000種類以上の廃液処理を手がけてきた膨大なデータベースを保有しています。この蓄積された知見を活用して、お客様それぞれの排水特性に合わせた最適な処理方法を迅速かつ的確に提案できることが当社の強みです。

実際、当社が手がけた導入事例の中には、DO管理の改善によって劇的な効果を上げたケースが多数あります。例えば食品加工工場の排水処理で、常にDOが不足し悪臭に悩まされていた現場に対し、弊社の凝集剤「水夢」を提案しました。その結果、処理水の臭気が解消されただけでなく、ブロワの運転エネルギーも削減され、処理コストを約50%削減することに成功しました。

当社の技術力は、公的機関や他社との共同研究・認証取得にも裏付けられています。国土交通省や農林水産省の認定を受けた実績があり、2011年の福島第一原発事故後には当社の水処理剤「水夢」が汚染水処理にも採用されました。また無機凝集剤「水夢」シリーズは現在までに340社以上の企業で導入され、高難度の排水(塗料廃水や重金属廃水など)の処理コストを大幅に削減してきました。これらの実績は、当社の提供するソリューションの高性能・高信頼性を示すものです。

株式会社アクトでは、環境技術の情報発信にも力を入れています。今回のブログ記事もその一環であり、DO管理でお困りの皆様に少しでも有益なヒントを提供できれば幸いです。当社は今後も「環境負荷低減と経済性の両立」をモットーに、水処理技術の研鑽とソリューション開発に邁進してまいります。

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