工場や事業所から出るヘキサン含有排水を適切に処理することは、環境保護と法令遵守の上で非常に重要です。本記事では、ヘキサンの基本とその産業用途、排水中に混入した場合の影響から、具体的な除去技術や安全管理のポイントまで、専門家の視点でわかりやすく解説します。ヘキサンは多くの産業で利用されていますが、排水に含まれると油膜による環境への悪影響や排水基準超過の原因となり得ます。そこで、安全で効率的にヘキサンを除去する様々な手法を紹介し、自社の排水処理システム最適化に役立つ情報を提供します。
ヘキサンとは?産業用途と排水への影響
ヘキサン (Hexane) は化学式C₆H₁₄を持つ炭化水素で、無色透明の液体です。揮発性が非常に高く常温でもすぐ蒸発し、引火点は-26℃と極めて低いため空気中で爆発し得る可燃性の溶剤です。この特性から、ヘキサンは工業用溶剤として幅広く利用されてきました。以下に主な産業用途をまとめます。
- 食品産業:大豆油や菜種油など植物油の抽出溶媒としてヘキサンが使われます。種子から効率よく油分を取り出すために利用され、最終的には製品から完全に除去されるよう管理されています(食品中に残留しないよう回収・蒸留されます)。
- 化学工業:医薬品、プラスチック、化粧品などの製造プロセスで、有機合成の溶媒や精製工程にヘキサンが使われます。接着剤・インク・塗料の溶剤としても用いられ、ゴム製品の製造過程(タイヤやホースの製造など)でも溶剤として活躍しています。
- 金属加工・精密機器製造:部品表面の洗浄・脱脂用途でヘキサンが利用されます。速乾性が高く乾いた後に残留物が少ないため、電子部品のクリーニングや金属部品から油汚れを除去する用途に適しています。また、自動車整備など機械メンテナンスの現場でも、ヘキサンに類する油性溶剤で部品洗浄を行うことがあります。
このように多様な用途で便利に使われるヘキサンですが、一方で排水中に含まれると問題になります。ヘキサン自体は水にほとんど溶けず(水には浮くか蒸発しやすい)ですが、排水表面に油膜を形成して水中への酸素溶解を妨げ、魚など生物を窒息させる恐れがあります。土壌に浸み込めば地下水汚染の原因にもなりかねません。また排水処理設備内では、油分が配管内に付着して詰まりや故障の原因となったり、処理槽の表面に油膜を張って微生物による生物処理を阻害したりします。さらにヘキサンは揮発性有機化合物(VOC)でもあり、大気中に放出されると光化学スモッグや低層オゾンの原因ともなるため、空気中への排出も規制されています。加えて、ヘキサン蒸気を長期間吸入すると神経系へ障害を及ぼすことが知られており、労働安全上も注意が必要な物質です(実際、n-ヘキサンは長期反復暴露により末梢神経障害を起こし得るとSDSでも警告されています)。このような理由から、ヘキサンを含む排水は放置せず、適切に処理・管理することが求められるのです。
ヘキサン含有排水の発生源と特性(食品・化学・金属加工業界)
ヘキサン含有排水(ヘキサンや油分を含む排水)は、さまざまな業種で発生します。ここでは食品業界, 化学業界, 金属加工業界の3分野を中心に、その発生源と排水の特性を見てみましょう。
- 食品産業からの排水:食品工場では食用油を扱う工程が多く、揚げ物の廃油や調理器具の洗浄排水に油分が大量に含まれます。ヘキサン自体が食品工場で直接排水に捨てられるケースは少ないですが、前述した植物油の抽出工程ではヘキサンを大量に使用するため、設備の漏洩や清掃排水にヘキサンが混入する可能性があります。また食品工場や大規模厨房では動植物油脂由来の油が排水中に含まれ、この油脂類は検査上「ノルマルヘキサン抽出物質」(ヘキサンで抽出される油分)として測定されます。動物・植物由来の油は時間経過で固まりやすく、配管詰まりや悪臭の原因にもなるため、排水中の油脂分について厳しく管理する必要があります。
- 化学・工業系の排水:化学工場や製造業では、製品や部材の製造過程で有機溶剤が多用されています。ヘキサンはそうした有機溶剤系排水の一部として登場します。たとえば接着剤や塗料工場では洗浄にヘキサンを使うことがあり、製品切替時の洗浄排液などにヘキサンが含まれる可能性があります。医薬品・化粧品工場でも試薬や抽出溶媒にヘキサンを使用する場合、その残液や洗浄水が排出源となり得ます。これら化学系排水に含まれるヘキサンは鉱油系の油分であり生分解性が低く、水中に残留しやすいのが特長です。また揮発もしやすいため、排水溝からの臭気や作業環境への影響にも注意が必要です。化学業界では、ヘキサンなど溶剤は可能な限り工程内で回収・再利用するのが一般的ですが、それでも全てを回収しきれない場合や、設備メンテナンス時に含有廃液が発生する場合があります。このような排水は油膜が目立たなくてもヘキサンが溶け込んでいるケースがあり、放流時には見えない油分として環境に影響を与えかねません。
- 金属加工・自動車整備からの排水:金属部品の加工では切削油や防錆油など鉱物油が使われ、機械整備ではエンジンオイルや潤滑油が扱われます。これらの油分は直接ヘキサンそのものではないものの、排水検査上はノルマルヘキサン抽出物質(鉱油類)として測定される対象です。金属加工工場の洗浄工程では、パーツクリーナーとしてヘキサン系溶剤が使われる場合もあります。この分野の排水特性は、鉱油由来の油分が多く含まれることです。鉱油は動植物油に比べ分解されにくく、水面に浮く軽質油から、乳化剤の混入で水中に細かく分散したエマルション状態のものまで様々です。自動車整備工場では洗車や床洗浄の排水に廃オイルが混じることがあり、対策しないと排水中の油分濃度が高くなります。こうした排水は見た目に油膜が確認できる場合も多く、放流すれば環境汚染につながるため注意が必要です。特に鉱油系の油分は法規制上厳しい基準値(後述)を満たさねばならず、確実な除去が求められます。
以上のように、ヘキサン含有排水は食品(動植物油中心)・化学(有機溶剤中心)・金属加工(鉱油中心)など幅広い業種で発生します。それぞれ油分の性質は異なりますが、共通して言えるのは排出前に油分を低減させる処理が必須であることです。次章では、そのような排水に適用される法規制と基準について確認しましょう。
ヘキサン排水の法規制と排水基準への対応
ヘキサンや油分を含む排水には、各種法律や条例で排出基準が定められています。日本では水質汚濁防止法に基づき事業場排水の一律排水基準が設けられており、油分については「ノルマルヘキサン抽出物質含有量」として次のように規制されています。
- 動植物油(動物性・植物性の油脂類):30 mg/L 以下
- 鉱油(鉱物性の油類、機械油・エンジン油など):5 mg/L 以下
上記は全国共通の最低基準ですが、自治体によってはこれよりさらに厳しい上乗せ基準を条例で定めている場合があります。特に下水道へ排水を流入させる場合、各自治体の下水道条例で油分の規制があるため、事前に確認が必要です(地域によっては鉱油3 mg/L以下など、一層厳しい数値が設定されていることもあります)。排水管理担当者は、自社が排水を放流する先(水域や下水道)の基準値を把握し、その基準を満たす処理計画を立てねばなりません。
また、飲食店や食品工場ではグリーストラップ(油脂阻集器)の設置が義務付けられている場合が多いなど、設備面での規制・指導も存在します。これは排水中の油脂を源流で捕捉し、公共下水や水環境への負荷を減らす目的です。さらに大量の有機溶剤を扱う工場では、化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)によりヘキサンの年間排出量報告義務が発生する場合もあります。ヘキサンは有機則(有機溶剤中毒予防規則)で第二種有機溶剤等に区分され、作業環境中の管理濃度も定められている物質です。つまり労働安全面・環境面の両方から管理が求められる化学物質であり、排水としても決められた基準値以下に処理してから放流する法的責任があります。
排水基準への対応としてまず必要なのは、定期的な排水分析です。ノルマルヘキサン抽出物質量の測定を含む水質検査を実施し、自社の排水が基準内に収まっているか確認します。基準超過が発覚した場合は直ちに原因を究明し、適切な処置(例えば油分の回収強化や処理工程の追加)を講じなければなりません。万一基準を超えた排水を放流すると、罰則や操業停止命令など厳しい措置が取られる可能性もあります。
以上のように、ヘキサン含有排水への規制は厳格です。しかし適切な設備と技術を導入すれば、基準遵守は十分可能です。次章以降で、その具体的な油分除去技術について詳しく見ていきましょう。法規制をクリアし、環境保全と事業継続を両立するためにも、自社排水に最適な処理方法を理解することが重要です。
油水分離によるヘキサン除去技術と最適化
油分を効率よく除去する基本ステップとして挙げられるのが油水分離です。ヘキサンや鉱油・動植物油はいずれも水より軽く不溶性であるため、比重差を利用すれば水面に浮上させて回収することができます。この原理を使った代表的な設備が油水分離槽(グリーストラップ)です。グリーストラップは排水経路に設置され、内部で水流をゆっくりにして油分を浮上・溜める構造になっています。食品工場や飲食店では設置が義務付けられるほど基本的な設備であり、定期的に溜まった油脂を回収・清掃することで、排水中の油分を大幅に減らす効果があります。
産業排水向けには、より大型の油水分離タンクや機械式の油分離装置(APIオイルセパレーター、傾斜板分離器など)も用いられます。これらも基本は重力による浮上分離ですが、内部に仕切り板やコアレッサー(油滴を集めて大きくする板やネット)を入れることで分離効率を高めています。分離槽で回収された浮上油は定期的に抜き取って産業廃棄物(廃油)として処理するか、再利用可能ならリサイクルに回します。
油水分離はシンプルかつランニングコストが低い処理ですが、最適化のポイントを押さえて運用する必要があります。まず、分離槽の容量と滞留時間を排水量に見合った十分なものにすることが重要です。滞留時間が短すぎると油滴が浮く前に流出してしまいます。また、排水中に界面活性剤(洗剤類)が多いと油が乳化して浮きにくくなるため、可能なら前処理で界面活性剤を低減したり、後述する薬品処理で乳化を解消したりする対策が有効です。油水分離槽に加温機能を付けて油脂を溶けやすくする、表面撹拌を止めて静置分離を促進する、といった工夫も場合によっては行われます。
さらに、定期メンテナンスも欠かせません。せっかく捕集した油も、回収を怠れば槽内を再び流出し排水を汚染します。グリーストラップでは少なくとも数日に一度はスクリーンや槽内の油脂を除去し、悪臭や詰まりの原因を取り除く必要があります。
油水分離のみでどの程度まで油分濃度を下げられるかは、油滴の大きさや排水条件によります。一般的な石油系工場の実績では、重力分離後の処理水中に残る油分(ノルマルヘキサン抽出物質)は10~20 mg/L程度になると報告されています。これは動植物油の排水基準30 mg/Lはクリアできますが、鉱油の基準5 mg/L以下には届かない濃度です。つまり、油水分離だけでは不十分な場合が多く、後段の処理との組み合わせが重要になります。油分離槽で回収しきれなかった微量のヘキサンや乳化油を除去するため、次に紹介する生物処理や活性炭、化学処理といった方法を追加して、最終的な基準適合を図ります。
なお、アクトでは油水分離の段階にも工夫を凝らしています。例えば、排水中の油分を凝集剤で予め疎水性の大きな塊にまとめてから分離槽に送ることで、分離効率を飛躍的に高める手法があります。弊社開発の水処理凝集剤「水夢」シリーズには、油分に対して高い凝集効果を持つタイプもあり、従来は浮いてこなかった微細な油粒子を短時間で浮上・沈降させることが可能です。また小規模事業所向けには、油吸着マットや特殊スポンジなど吸着材を併用するケースもあります。例えばグリーストラップ内に油吸着剤や活性炭マットを設置し、浮上油とともに溶け込んだヘキサン成分も吸着除去することで、後工程の負荷を減らす工夫です。これらは比較的低コストで導入でき、既存設備の性能向上に寄与するため、油水分離工程の最適化手段として有効です。
生物処理(好気性・嫌気性)でのヘキサン分解方法
油分を含む排水の浄化には、生物処理(バイオ処理)も重要な役割を果たします。生物処理とは、排水中の有機物を微生物の分解作用によって除去する方法です。ヘキサンなど炭化水素類も微生物のエサ(炭素源)となり得るため、適切な条件下では分解が可能です。ただし油分の種類や濃度によって、処理効率や適用すべき処理プロセスが異なります。ここでは好気性処理(酸素を使う)と嫌気性処理(酸素を使わない)の2つの生物処理について、それぞれ特徴を解説します。
▶ 好気性処理(活性汚泥法など):
一般的な排水処理施設で広く採用されている方法です。空気を送り込んだ曝気槽で微生物(細菌や真菌)が有機物を酸化分解し、最終的に炭酸ガスと水にまで分解します。油分に関しても、一部の微生物は油をエネルギー源として利用できます。しかし鉱油系の油分やヘキサンなど分解しにくい物質は、好気性処理だけでは難しい場合があります。特に濃度が高い油排水では、油が浮いて微生物に十分行き渡らなかったり、油膜が水面を覆って酸素の溶解を妨げたりするため、効率よく処理できません。またヘキサン自体が高濃度だと微生物にとって毒性を示し、活性汚泥(微生物の塊)の働きを阻害することもあります。一方、前工程で油分を大幅に除去した後の排水であれば、活性汚泥法によって残留する溶解性の有機物を処理し、BODやCODを基準値内に収めることができます。実際、多くの工場排水処理施設では「油水分離+凝集処理」で油分を減らした後、好気性生物処理で最終仕上げを行い、放流水質を安定させる設計が取られています。
▶ 嫌気性処理(メタン発酵法など):
嫌気性処理は、酸素を供給しない密閉槽で微生物に分解させる方法です。油分など難分解性の有機物でも、時間をかけてゆっくりと分解できる利点があります。特に高濃度の油脂分を含む排水には嫌気性処理が有効とされています。たとえば食品工場の廃油を多く含む排水や、パーム油製造工場の排水では、大型の嫌気性反応槽(消化槽)で油脂分をメタンガスに分解させエネルギー回収する取り組みもあります。嫌気性処理は反応に時間を要しますが、発生する汚泥量が少なく(有機物の多くがガス化するため)後処理コストが低いという利点があります。ただしプロセスの安定運転には高度な管理が必要で、温度やpH、有毒物質の影響に繊細です。工場規模でも、嫌気性処理だけで放流水質基準まで到達させることは難しく、しばしば前段に嫌気、後段に好気という組み合わせ(二段処理)が採用されます。嫌気性で有機物を大幅に減らしてから、残留物を好気性で仕上げ処理するイメージです。
生物処理のメリットは、化学薬品に頼らず汚染物質を無害化できることと、適切に運用すれば安定して環境に優しい処理ができる点です。特に嫌気性処理では副産物のメタンガスをエネルギー利用できるため、再生可能エネルギー生産の側面もあります。デメリットとしては、前述のように油分が多すぎると処理が難しいこと、微生物の生育管理に専門知識が要ること、温度変化や負荷変動に弱いことが挙げられます。
活性炭処理によるヘキサン吸着除去技術
ヘキサンなどの残留汚染物質を最終的に取り除く切り札としてよく使われるのが、活性炭処理です。活性炭は内部に非常に細かな孔が無数にある多孔質の炭素材で、この孔が有機化合物の分子を物理的・化学的に吸着します。水処理において活性炭は主に吸着剤として位置づけられ、油分や溶剤成分など、水中に微量残存する有機物を効率よく除去できます。
ヘキサンは水にほとんど溶けませんが、微量は溶解しますしエマルジョン状で残ることもあります。そうした水中の低濃度ヘキサンに対し、活性炭は極めて有効です。粒状活性炭 (GAC) のカラムを通水すれば、ヘキサンなど疎水性有機物は炭の表面に引き寄せられて捕捉され、浄化された水が得られます。活性炭は飲料水処理の脱臭や色素除去にも使われる安全な資材であり、排水処理のポリッシング工程(仕上げ工程)として導入しやすい方法です。
例えば、油水分離や凝集沈殿で一次処理した排水に残る数mg/Lレベルの油分を除く際、活性炭処理を組み合わせると放流基準を確実にクリアできるようになります。実際、「活性炭フィルターを通したらノルマルヘキサン値が検出限界未満まで下がった」という事例も多く報告されています。アクトでも、小型処理装置ACT-200のオプションとして活性炭フィルターを提供し、処理水のさらなる浄化に役立てています。特に鉱油系排水では基準値が厳しいため、最終段で活性炭処理を入れておけば安心です。
活性炭処理の留意点は、定期的な交換・再生が必要なことです。活性炭は飽和(内部の吸着容量が一杯の状態)すると、それ以上汚染物質を取れなくなります。ヘキサン含有排水の場合、処理水のノルマルヘキサン値を定期測定し、上昇傾向が見られたら活性炭を新しいものと交換する、といったメンテナンスが求められます。交換頻度は排水の汚染負荷次第ですが、高濃度の油分を前処理なしで直接活性炭に通すのはコスト的にもったいないため、前段階でなるべく油分を除去してから活性炭にかけるのがポイントです。
もう一点、活性炭は空気中の有機物吸着にも使われます。ヘキサンは揮発しやすいため、排水処理の過程で発生するヘキサン臭気(気相中のヘキサン)を除去する目的で活性炭フィルターを設置することもあります。このように活性炭は水相・気相問わずヘキサンの除去に有効であり、総合的な環境対策に有用です。
まとめると、活性炭処理は「最後の砦」としてヘキサン含有排水処理システムに組み込む価値があります。簡単に導入でき高い除去性能を発揮しますが、その性能維持にはモニタリングとメンテナンスが欠かせません。
ヘキサン処理における安全管理と作業環境対策
ヘキサン含有排水を扱う際には、安全管理と作業環境の対策にも十分な注意が必要です。ヘキサン自体が危険性の高い物質であるため、処理設備や作業手順を適切に整備しないと、労働災害や二次公害のリスクがあります。以下、主な留意点を整理します。
- 火気厳禁・防爆対策:ヘキサンは非常に引火しやすく、空気中で1.2~7.7%の濃度で爆発性混合気を形成します。排水処理設備周辺では火気を厳禁とし、電気機器は防爆仕様のものを使用する必要があります。特に油分を分離・貯留するタンクやトラップは密閉度を高め、換気を十分行いましょう。ヘキサンの蒸気は空気より重いため床面やピットに滞留しやすく、ガス検知器の設置や強制換気ファンによる換気も有効です。静電気放電で引火する可能性もあるため、配管・タンクのアース(接地)を確実に行い、作業者も帯電防止の服装を心がけます。
- 保護具と作業手順:ヘキサンは経皮吸収や吸入によって健康影響を及ぼします。揮発したヘキサンを長時間吸入すると、頭痛やめまい、中枢神経への障害、さらに長期では末梢神経障害(手足のしびれや筋力低下)を引き起こすことが報告されています。作業者は有機ガス用マスクや保護メガネ、耐油性手袋など適切な保護具を着用し、皮膚や呼吸器への曝露を低減しましょう。作業時間の管理や定期健康診断も欠かせません。特にヘキサン溶剤を直接扱う工程では、有機溶剤中毒予防規則に基づく作業環境測定や局所排気装置の設置が義務付けられます。排水処理現場でも、ヘキサン臭が強い場所ではドラフトチャンバーや局所換気を活用し、換気の悪い場所で作業しない手順を定めます。
- 漏洩・流出対策:ヘキサン含有排水や純粋なヘキサン溶剤が万一漏洩した場合に備え、速やかに回収・拡散防止する体制を整えておきます。吸着剤(油吸着マットや活性炭など)を備蓄し、床にこぼれた場合はすぐに回収できるよう訓練しておきましょう。排水ピットに大量流入した場合は引火の危険があるため、泡消火剤を投入して空気との接触を遮断するなど初動措置を講じます。環境中へ流出した場合に備え、緊急連絡先や通報手順を事前に共有し、延焼・公害の拡大を防止する計画を持つことも安全管理の一環です。
- 作業環境モニタリング:処理施設内の空気中ヘキサン濃度を適宜チェックし、許容濃度(例えば日本産業衛生学会の管理濃度や法令の基準値)を下回っていることを確認します。換気装置や活性炭脱臭装置の効果を定期的に点検し、悪臭や有機ガス臭を感じる場合は直ちに原因を追究します。作業員の体調管理も大切で、「シンナー臭でくらくらする」などの訴えがあれば防毒マスクの着用状況や換気を再確認します。
以上のような安全対策を講じることで、ヘキサン含有排水の処理作業は初めて安全かつ健全に行えます。
ヘキサン回収・再利用システムとコスト削減効果
環境負荷を減らしつつ経済的メリットを生み出す手段として注目されるのが、ヘキサンの回収・再利用です。排水から完全にヘキサンを除去して捨ててしまう代わりに、溶剤回収装置などを用いてヘキサンを回収すれば、廃棄物削減とコストダウンの両立が可能になります。
例えば食品工場の油脂抽出工程では、使用したヘキサンを蒸留によって回収し、再び抽出に使う循環システムが一般的です。ヘキサンは沸点が約69℃と比較的低いため、加熱して蒸発させ冷却すれば高純度で回収できる特性があります。この蒸留方式による溶剤回収は効率が高く、適切に運用すれば使用ヘキサンの大部分を再利用できます。実際、植物油の工場ではヘキサンを常に95%以上リサイクルし、新規購入量と大気放出量を極力抑えている例もあります。
また、印刷・塗料産業などでは製造工程から出るヘキサン含有排気を活性炭吸着装置で捕集し、定期的に脱着再生してヘキサンを回収する方法が用いられます。低濃度のヘキサンを含むガス処理には、この吸着法が適しており、回収したヘキサンは再度溶剤タンクに戻して有効利用できます。最近では回収プロセスの自動化・省エネ化も進んでおり、消費エネルギーを抑えつつ高い回収率を実現する装置が登場しています。
コスト削減効果について具体的に見てみましょう。ヘキサン回収装置を導入すると、まず廃棄コストが下がります。従来なら産業廃棄物(廃溶剤)として処理業者に委託していたものが、回収再利用によって廃棄物そのものの量を減らせます。さらに回収したヘキサンは新たに購入する必要がなくなるため、材料費の節減にもつながります。ヘキサンの使用量が多い業種ほど、このメリットは顕著です。実際、ある化学工場では溶剤回収装置導入により年間数百万円規模で溶剤購入費が削減でき、装置の投資額をわずか2年程度で回収した例もあります。また、VOC排出規制への対応強化によって将来的な規制コスト(罰金や対策費用)の回避にも寄与します。
環境面でも、ヘキサンの大気放出削減は光化学オキシダント対策に貢献しますし、廃棄物量の削減は事業所の環境負荷低減に直結します。まさに「環境とコストの両立」を可能にするソリューションと言えるでしょう。
複合処理システムによるヘキサン除去の最適化
ここまで述べてきた各種の処理技術(油水分離、生物処理、活性炭処理、溶剤回収など)は、それぞれ単独でも効果を発揮しますが、実際の排水処理では複数の方法を組み合わせたシステムとするのが一般的です。ヘキサン含有排水の性状は業種や工程によって大きく異なるため、「この方法一つで万全」という万能策は存在しません。そこで、それぞれの処理技法の長所を組み合わせ、経済的かつ確実に油分・ヘキサンを除去できる複合処理システムを構築することが最適解となります。
例えば、ある工場排水に対して次のような多段処理プロセスが考えられます:
- 一次処理(物理分離): グリーストラップや油分離槽で浮上油を回収し、大部分の油分を除去する。【油水分離】
- 二次処理(化学処理): 残留する乳化油や微小油滴に対し凝集剤を添加し、凝集沈殿または浮上分離によって除去する。必要に応じて溶解油分を活性白土などで吸着除去する工程も追加。
- 三次処理(生物処理): 前段で油分を減らした排水を、生物処理(好気性の曝気槽や嫌気性反応槽)にかけ、ヘキサン由来の溶存有機物や他の汚濁成分(BOD、COD、窒素など)を分解する。ここまでで水質基準近くまで浄化。
- 四次処理(仕上げ処理): 活性炭吸着塔や精密ろ過膜を通し、微量の残留ヘキサンや濁り成分を完全に除去する。これにより全項目で排水基準値を下回る安全な処理水が得られる。必要に応じて消毒も実施し放流。
- 溶剤回収(適用可能な場合): 上記プロセスの適切な地点で、ヘキサンを回収可能な形で取り出し再利用する(例えば一次処理後に回収装置へ導く、気相に逃げたヘキサンを活性炭で捕集して再生する等)。
このような複合システムにすることで、それぞれの工程の負荷が分散され、全体として効率的で安定した処理が可能となります。物理分離で取れるものはできるだけ取り、化学処理で難分解な油を凝集させ、生物処理で最終的に分解し、活性炭で念押しの磨きをかける――まさに「縦横無尽」に手法を組み合わせるイメージです。重要なのは、自社の排水特性に合わせて最適な組み合わせを選ぶことです。たとえば動植物油主体なら嫌気性処理+好気性処理で十分かもしれませんし、鉱油主体なら凝集処理+活性炭処理が欠かせないでしょう。排水量や濃度によっても経済的な選択肢は変わります。
複合処理システムの導入効果は、水質改善だけではありません。例えば、ある食品工場では物理+化学+生物処理の導入により廃液量を大幅削減し、産廃処理費用とCO₂排出を減らすことに成功しました。別の事例では凝集沈殿+活性炭処理で、既存設備では対応できなかった微量油分まで除去できるようになり、下水道への放流基準を安定して満たせるようになりました。「環境にも経済にもプラス」である複合処理は、まさに今後の排水処理のあるべき姿と言えるでしょう。
アクトのヘキサン含有排水処理による環境改善事例
最後に、アクトが手掛けたヘキサン含有排水処理の成功事例をご紹介します。実際の導入例を知っていただくことで、弊社技術の有効性や他社との差別化ポイントを感じていただければと思います。
ケーススタディ:自動車整備工場での油分排水処理改善
ある自動車整備工場では、洗車や整備工程から出る排水に鉱物油(廃エンジンオイル等)が混入し、排水基準(ノルマルヘキサン抽出物質 5 mg/L以下)の遵守が課題となっていました。処理施設は簡易な沈砂池と油水分離槽のみで、処理水中の油分濃度は約42 mg/Lにも達し基準超過の状態でした。またBODも約69 mg/Lと高く、近隣水域への影響も懸念されていました。
この工場に対し、アクトの凝集剤「水夢」と補助剤「エレメントキャッチャー」(活性炭)を組み合わせて凝集処理し、さらに弊社の小型凝集ろ過装置「ACT-200」内の「活性炭フィルター」で処理後の水を循環させるという処理を提案しました。
すると、処理水中のノルマルヘキサン抽出物質濃度は42 mg/Lから「検出限界未満」まで低減し、油分はほぼ完全に除去されました。またBODも69.1 mg/Lから12.8 mg/Lへ約80%減少しact-hokkaido.com、各種排水基準を十分にクリアする水質となりました。肉眼でも水面の油膜が消え、水質が格段に向上したことが確認されています。従業員の方からは「装置がシンプルで専門知識がなくても扱いやすい」と好評をいただきました。
アクトの技術力とサポート体制
上述の事例に限らず、アクトは様々な業種の排水問題解決に取り組んできました。お客様それぞれへ対応するうちに増えていった自社開発の凝集剤「水夢」をはじめとする豊富な薬剤ラインナップはアクトの強みです。
アクトは「昔の自然を取り戻したい」という創業理念のもと、単なる装置や薬品の提供にとどまらず、環境改善のパートナーとして寄り添う企業です。ヘキサン含有排水の処理という課題に対しても、その場限りではなく継続的な改善提案を行い実績多数の技術力ときめ細かなサポート体制で、貴社の排水管理を力強くバックアップいたします。
以上、ヘキサン含有排水の処理方法について、その基礎知識から具体的技術、実例まで詳しく解説しました。ポイントをまとめると以下の通りです:
✅ 排水基準 は、動植物油で 30mg/L以下、鉱油で 5mg/L以下 に制限されている。
✅ 発生源 は食品加工や化学工場、自動車整備・金属加工など幅広い業種の油を含む排水。
✅ 除去技術 は、油水分離槽、吸着材(活性炭等)、凝集沈殿、生物処理の組み合わせが有効。
ヘキサン含有排水の適切な処理は、企業の環境責任を果たすだけでなく、装置や配管を守りトラブルを防ぐことにもつながります。アクトはその実現のための最適解を一緒に考えていくことができますので、排水の油分対策でお困りの際はぜひご相談ください。