PAC(ポリ塩化アルミニウム)とは?凝集処理での効果と最適使用法を解説

PAC(ポリ塩化アルミニウム)は、水処理において広く使われる無機凝集剤です。排水や浄水の処理で威力を発揮し、特に微細な汚濁物質を短時間でまとめて沈降させる効果があります。本記事ではPACの基本的な特徴から凝集処理での作用メカニズム、従来から使われてきた硫酸アルミニウム(硫酸バンド)との比較、さまざまな業界での使用事例、適切な注入量の決め方、水質管理上のポイント、処理後の汚泥対応、コスト面の考え方、そして株式会社アクトにおけるPAC活用の最適化事例まで、幅広く解説します。排水処理の担当者の方にとって、PACを使った凝集処理の効果と上手な使いこなし方の参考になれば幸いです。

目次

PAC(ポリ塩化アルミニウム)の基本知識と化学的特性

PACはPoly Aluminium Chlorideの略称で、日本語では「ポリ塩化アルミニウム」と呼ばれる液体状の凝集剤です。塩酸にアルミニウムを反応させて製造されるアルミニウム塩で、一部が加水分解されたプレポリマー状態になっているのが特徴です。この「部分的に重合したアルミニウム塩」という性質により、水に溶けやすく操作性が良いことが利点です。

PACは淡黄色~透明の酸性液体で、pHは約4ほどあります。同じアルミ系凝集剤でも塩化アルミニウム(塩酸アルミとも呼ばれる)はpH約2と強酸性で腐食性が高いのに対し、PACはpHが比較的穏やかなので扱いやすく、中和剤の使用量も少なくて済みます。PACの液中には微量の硫酸イオンが含まれており、この硫酸イオンが凝集性能や適用pH範囲の広さに良い影響を与えるため、塩化アルミニウムよりPACの方が現場で使いやすいとされています。

PACの主成分であるアルミニウムの含有率は比較的高く、一般にAl2O3濃度が10%前後の製品が多いです(メーカーやグレードによって異なります)。またPACには塩基度(えんきど)と呼ばれる指標があり、これはアルミニウムに対してどの程度OH-(水酸基)が結合しているかを表します。塩基度の高いPAC(高塩基PAC)は部分中和が進んでいるため、低温時や水のアルカリ度が低い場合でも凝集効果が落ちにくいという利点があります。実際、高塩基度PACは冬季の低水温やアルカリ度の低い水でも性能低下が少なく、保存安定性にも優れることが報告されています。

まとめると、PACは「アルミニウムを主成分とする液体凝集剤」で「pH約4の酸性」「硫酸イオンを含む」「アルミニウム含有量が高い」「一部重合した構造(高分子アルミ)」「塩基度の違う製品が存在」といった化学的特性を持っています。これらの特性によって、水中で素早く反応してフロック(凝集塊)を形成しやすく、広い範囲の水質に適用しやすい凝集剤となっているのです。

凝集処理におけるPACの作用メカニズム

凝集処理は、水中の微粒子やコロイド状物質(にごりの原因となるもの)を集めて大きくし、沈殿・除去する工程です。凝集処理は一般に2段階に分けられ、まず凝結(coagulation)で微粒子の安定性を崩し、小さな凝集核を作り、次に凝集(flocculation)でそれらの核をゆっくり撹拌して大きなフロックに育てます。PACは主にこの最初の「凝結剤」として働き、水中に分散した汚濁物質をまとめる役割を担います。

PACを水に投入すると、アルミニウム塩が電離・加水分解してアルミニウムの水酸化物やポリ核種が生成します。PAC由来のアルミニウム種は正の電荷を帯びていることが多く、これが水中の負に帯電した微粒子(粘土、シルト、有機物コロイドなど)が互いに反発しあって安定している状態を打ち消します。いわゆる電荷中和作用によって微粒子同士がくっつきやすくなるのです。また、PACの加水分解生成物そのもの(アルミニウムの水酸化物)がフロック(凝集塊)として生成し、周囲の微粒子や溶解性の汚染成分を吸着・巻き込み効果で取り込む働きもあります。これら二つの作用によって、水中の細かな汚れは次第に大きな粒へと集合します。

例えば、池や川の水を浄水場で処理する際には、PACを加えることで細かい土砂やプランクトンといった粒子が互いにくっつき合い、やがて肉眼でも見えるフロック(泥団子状の塊)になります。このフロックは比重が大きくなるため静置すれば沈み、水から分離することができます。PACは短時間で強力に粒子表面の電荷を中和し、安定したフロックを形成しやすい薬剤なので、凝集処理全体の時間短縮や効率向上につながります。

ただし、PAC(無機凝集剤)だけで処理を完結させることは難しく、後工程で高分子凝集剤(ポリマー)を併用してフロックをさらに大きく強固にするのが一般的です。一連の処理フローとしては、「汚水にPACを投入して凝結 → 必要に応じ中和剤でpH調整 → 高分子凝集剤を投入してフロック成長 → 沈降分離」というステップになります。PACはあくまで「小さな粒を作る役割」であり、「大きなフロックに育てて沈降させる役割」は撹拌条件と凝集剤(ポリマー)に委ねられます。しかし逆に言えば、PACによる初期凝結がうまくいかないと後工程もうまくいかないため、PACの選定と使い方が凝集処理の成否を握る重要なポイントになります。

以上がPACの作用メカニズムの概略です。まとめると、PACはプラス電荷でコロイドの反発を抑え、アルミの水酸化物フロックで汚れを捕捉することで水をきれいにしています。適切な薬剤選定と撹拌条件のもとで使用すれば、少ない薬品量でも透明度の高い処理水を得ることが可能になります。

PACと硫酸アルミニウムの性能比較と使い分け

凝集剤として伝統的によく使われてきたものに硫酸アルミニウム(アルミニウム硫酸塩、通称「硫酸バンド」)があります。PACと硫酸アルミニウムは共にアルミニウムを有効成分とする無機凝集剤ですが、化学的性質や使い勝手、処理効果にいくつか違いがあります。それぞれの特徴を比較してみましょう。

  • 主成分の形態: 硫酸アルミニウムは Al2(SO4)3の形で水中で加水分解し水酸化アルミを生成します。一方、PACは反応工程であらかじめ一部ポリマー化(塩基化)されたアルミニウム塩であり、投入後すばやく反応が進む状態になっています。簡単に言えば、PACは「アルミがあらかじめ活性化された状態」、硫酸アルミは「一から反応させる状態」と言えます。
  • 凝集効果の出方: PACは少量でも素早く安定したフロックを形成しやすいのに対し、硫酸アルミはPACと比べると効果発現がゆっくりで、同じ効果を得るには多めの薬剤量が必要になる傾向があります。実際、一般的にPACの注入量は硫酸アルミ使用時の50~80%程度で同等の処理効果が得られると言われています。ネクストリー社の報告でも、PACを使えば硫酸バンドより20~50%添加量を削減できるとされています。高濁度の原水においては、PACの方が少量で強力な凝集を起こし数倍の効果を発揮するケースもあるようです。このため薬品使用量の削減処理設備の小型化の点でPACは有利です。
  • 溶解性・取り扱い: 硫酸アルミニウムは固形(粉末や粒状)の製品も多く、水に溶かして使う場合がありますが、温度によっては溶解操作に工夫が必要です。それに対してPACは液体製品が主流でそのまま計量ポンプで投入でき、溶解・希釈の手間が少ないです。またPACは腐食性が比較的低いため配管やタンクの材質への負担も小さく、扱いやすさの点でも勝ります。硫酸アルミは酸性が強く(商用液はpH3前後)、設備腐食対策や保管時の凍結(約-5℃以下で結晶析出)にも注意が必要です。
  • 水質への影響(pH変動): PACは加水分解度が高いため、凝集に利用されるアルミニウムあたりの酸消費量(アルカリ消費量)が硫酸アルミより少なく、処理水のpH低下を招きにくいです。一方、硫酸アルミは投入量に応じて水のpHを下げやすく、大量に使うと強い酸性になってしまいます。そのため硫酸アルミでは後段で中和処理(消石灰や苛性ソーダ投入など)が不可欠な場合が多いですが、PACであれば比較的中性に近い条件でも凝集効果を発揮しやすく、pH調整剤の追加を抑えられる利点があります。ただしPACも酸性薬品である点には変わりないので、大量投入時はやはり中和処理は必要です(後述)。
  • 生成する汚泥量: 凝集剤を使うと、その副生成物としてアルミニウムを含む汚泥(スラッジ)が発生します。一般に同じ処理を行うなら、投薬量の多い硫酸アルミの方がPACより多くの汚泥を発生させます。PACは必要薬量が少なくて済む分、沈殿する化学スラッジの量も削減できるため、汚泥処理・産業廃棄物処分にかかるコストを低減しやすいとされています。「無機凝集剤は汚泥を多く発生させやすい」とよく言われますが、PACはその中でも比較的汚泥の出にくい凝集剤と評価できます。それでも処理水量が多ければ相応の汚泥量にはなるため、後述するように適切な汚泥管理は必要です。
  • コスト(薬剤費用): 一般にPACは硫酸アルミより単価が割高です。硫酸アルミニウムは古くから大量生産されていることもあり安価で、単純な薬品コストだけ見ればPACより有利です。しかし上記の通りPACは少ない投入量で済むこと、中和剤や助剤の削減汚泥処理費の低減などトータルコストではPACの方が有利になるケースも多くあります。特に、大規模処理で汚泥量や中和剤使用量がコストに占める割合が大きい場合、PAC採用による総合的なコストメリットが期待できます。
  • 適用分野: 硫酸アルミニウムは従来から上水道の浄水処理に多く使われてきました。比較的安価で大量処理に対応できることから、水道用以外にも下水処理場など公共分野で広く用いられています。一方PACは、浄水分野はもちろん産業排水まで含めてあらゆる水処理現場に採用が広がっています。特に近年はPACの性能向上や価格低下もあり、工場排水の分野でもPACを選ぶ企業が増えています。「硫酸アルミ=伝統的、PAC=高性能で汎用性が高い」という位置づけで、それぞれ水質や目的に応じて使い分けられているのが現状です。

以上を踏まえると、「処理効果を重視し安定運用したい場合はPAC、有効な代替がありコスト優先なら硫酸アルミ」という傾向があると言えます。ただし実際には水質条件や設備状況で適不適が変わるため、両者を試験的に使ってみて判断することが望ましいです。例えば、冬場の低水温下では硫酸アルミでは凝集しにくくPACの方が効果的といった違いもあります。逆に、原水の性質によっては硫酸アルミで十分対応できPACを使う必要がない場合もあります。したがって、凝集剤の性能比較試験(ジャーテスト等)を行い、自社の排水に最適な薬剤を見極めることが重要です。

業界別PAC使用事例(食品・化学・繊維・製紙)

PACはその汎用性の高さから、さまざまな業界の排水処理で活用されています。ここでは代表的な業種ごとの使用事例やポイントを紹介します。

  • 食品業界(食品・飲料工場の排水処理): 食品工場の排水には油脂やタンパク質、デンプン質などの有機汚濁物が多く含まれます。また製造工程で界面活性剤(乳化剤)が使用されている場合、排水中に油分が乳化して溶け込んでおり、生物処理では分解されにくい厄介な汚れとなります。こうした食品排水で一般的に採られる方法が、PACによる凝集沈殿(または凝集浮上)処理です。例えば乳製品工場や惣菜工場では、まず排水タンクにPAC等の無機凝集剤を注入して乳化している油分や微粒子を凝集させ、気泡浮上装置などでフロック化した汚れを分離、その後で活性汚泥などの生物処理を行うフローが用いられます。PACを入れることで油分が微小な粒子に固まり、浮上分離しやすくなります。食品排水は日々原料やメニューによって汚れの濃度が変動するため、本来は負荷変動に応じてPACの注入量を調整することが理想です。過去には高濃度時に合わせて薬品量を設定していたため、低濃度時には過剰投与となり薬品コスト増・汚泥増加の要因になっていました。近年では凝集センサーを用いた自動薬注システムによって、リアルタイムに凝集状態を監視しながらPAC注入量を制御する高度な運用も登場しています。いずれにせよ食品業界ではPACはなくてはならない薬剤であり、多量の有機排水を安定して処理するための重要な役割を果たしています。
  • 化学工業・金属加工業(メッキ排水等): 化学工場やメッキ工場では、製造工程から無機塩類や重金属を含む排水が出ます。これらの多くはそのままでは有害なので、中和や沈殿処理で除去する必要があります。典型例がメッキ工場排水で、六価クロムやニッケル、亜鉛などの金属イオンを薬剤で水酸化物沈殿させ、凝集剤でフロック化して除去します。こうした重金属の水酸化物は微細なため、PACを併用することで粒子を大きくまとめて沈降分離しやすくすることが可能です。アルカリでpH調整して金属イオンを不溶化させる際に、PACを一緒に入れておくことで反応生成物がより緻密で沈みやすいフロックになります。また、化学工場全般でも懸濁物質(SS)の除去リン酸など栄養塩の沈殿除去にPACが利用されます。リンの除去ではアルミニウム塩や鉄塩でリン酸を不溶性の塩として沈殿させる凝集沈殿法が一般的で、PACはその際のアルミ系凝集剤として使われます。さらに、化学系排水には色素や難分解性有機物が含まれることもありますが、PACと高分子凝集剤の組み合わせによりCODや色度をある程度低減できる事例も多く報告されています。例えば塗料・インキ製造の排水では、有機溶剤系から水性塗料へのシフトに伴い、水性塗料廃液の処理剤としてPACベースの凝集剤が使われています。PAC単独で処理困難な場合には鉄系凝集剤(塩化第二鉄など)や活性炭、脱色剤と組み合わせるケースもありますが、まずはPACで汚濁成分の大部分を取り除き、残留する難分解成分を追加処理するのが基本的な考え方です。
  • 繊維・染色工業(繊維工場排水): 繊維工場や染色工場の排水には、染料由来の色素有機助剤が含まれ、強い色や高CODの排水になることがあります。染色排水はそのままでは色度規制に抵触するため、凝集沈殿や活性炭処理で色を抜かなければなりません。PACは色物質(染料)に対しても効果を示す凝集剤で、鉄系薬剤と並んで脱色用途にも用いられます。例えば、ある飲料工場ではお茶やコーヒーの色素を含む排水処理において、通常は鉄系凝集剤を大量投入して沈殿処理を行っていたところ、色度センサーとPACの組み合わせで薬品注入量を最適化しつつ処理を安定化させた例があります。染色排水においてもPACと高分子凝集剤の併用で色度を低減し、その後の生物処理に繋ぐ方法が一般的です。色素の種類によってはPACでは十分に脱色できない場合もあり、その際はポリ鉄(塩化第二鉄系)や脱色剤を補助的に使うこともあります。しかしPACは広範な色素に対して基本的な凝集効果を示すため、まずはPACで可能な限り色を落とし、足りない部分を他の薬剤で補うというのがコスト的にも有利な戦略です。繊維・染色業界でもPACの高い凝集力と安定した処理結果が評価され、導入が進んでいます。
  • 製紙業界(パルプ・紙工場の排水処理): 製紙工場では膨大な用水を使い、工程排水や設備洗浄水が発生します。紙パルプ排水には微細な繊維充填剤(粘土等)、木材由来の有機物質(リグニンなど)が含まれ、濁度・色度ともに高くなりがちです。古くは硫酸アルミニウムが紙製造工程でロジンサイズ剤の定着(紙への薬剤固定)のために使われてきましたが、近年はPACがその代替や補助として使われるケースもあります。排水処理の面でも、一次沈殿池でPACを投加してSS(浮遊物質)やCOD成分を除去し、後段の活性汚泥負荷を下げる方法が一般的です。製紙排水は量が非常に多いため、PACを用いた凝集沈殿で大まかな固形分と汚れを取り除き、残った溶解性有機物を生物処理する組み合わせになります。PACは大量処理でも安定した結果が得られるため、大規模な紙パルプ工場でも採用されています。また、製紙業界では白濁した工程排水の再利用も行われますが、その際のファインファイバー(微細繊維)除去にもPAC凝集が利用されます。凝集沈殿で透明にした水を回収して再利用することで、水使用量の削減と排水負荷の低減につなげている事例も見られます。製紙業では薬品コストにシビアな面もありますが、処理効果の安定性や汚泥の脱水性向上を評価してPACを選定している工場もあります。

以上、食品、化学(金属)、繊維、製紙の各業界におけるPAC利用の概要を紹介しました。まとめるとPACは「微粒子や油分を含む排水」「処理量の多い排水」で特に効果を発揮しており、食品・化学(メッキ)・繊維・製紙など幅広い産業排水で採用されています。公共の上下水処理から民間工場まで、PACは安定した凝集効果が得られる信頼性の高い凝集剤として定着しています。

PACの最適注入量計算と調整方法

PACを効果的に使うには、その排水に対して適切な注入量(添加率)を見極めることが重要です。凝集剤の注入量が少なすぎると充分な凝集が起こらず、逆に多すぎると薬剤の無駄遣いになるばかりか、フロックが再分散したり処理水の水質悪化を招くこともあります。PACの最適注入量を決める代表的な方法としてジャーテスト(混和試験)があります。

ジャーテストとは、原水(処理対象の排水)に異なる量の凝集剤を入れて撹拌・沈殿させ、得られるフロックの大きさや沈降速度、上澄み水の透視度などを比較する試験です。これにより、どの程度の薬剤量で最も良好な処理結果が得られるかを事前に調べることができます。ジャーテストの結果は実プラントの目安になり、例えば「原水1リットルあたりPACを何mL添加するのが適切か」といった投薬率の設定に役立ちます。

一般に、凝集剤は適量を超えて入れすぎると却って凝集効果が落ちることがあります(反復凝散と呼ばれる現象です)。PACでも必要以上に入れすぎると、生成するアルミニウム水酸化物が過剰になり微粒子を再分散させたり、pHが下がりすぎてフロック形成に適した範囲から外れてしまったりします。したがって「多ければ多いほど良い」というものではなく、経験的に定まった最適範囲に収めるのが肝要です。ネクストリー社の記事でも「過剰投入は汚泥やコスト増につながるため、ジャーテストで適量を確認すること」が大切とされています。

最適注入量は排水の水質(汚れの種類や濃度、pH、温度など)によって変わります。例えば同じPACでも、濁度が高い水では必要量が多く、逆に非常に薄い汚れの水ではごく微量で足りることがあります。また食品工場のように日々水質が変動する場合、最適量も変化します。そのため、定期的にジャーテストを行って投薬量を見直すことや、先述のように自動制御システムでリアルタイムに調整する方法も有効です。

計算という観点では、処理対象の濁度SS濃度などから経験式的におおよそのPAC必要量を算出することもあります。例えば「1NTUあたり何mg-Al」というデータや、過去処理実績からの比例計算などです。しかし最終的には水質成分によって凝集のしやすさは異なるため、実水を使った試験による確認が不可欠です。

PAC注入量の調整手順としては、通常まず最適pH条件を把握し、次に凝集剤量を変えて試験し、さらに高分子凝集剤との組み合わせも考慮する、という流れになります。中和が必要な排水では、PAC量と同時に苛性ソーダなどの量も調整してバランス良くフロックが生成する点を探ります。凝集反応は水温の影響も受け、低温では反応が遅れるためその分PAC量を増やすか撹拌時間を延ばすことも検討します。

このように最適注入量の決定は多少手間がかかりますが、一度適量が分かれば過不足なくPACを用いることができ、薬品コストの節約汚泥発生抑制につながります。薬品は多めに入れておけば安心、といった発想はかえって非効率ですので、データに基づいて適切な管理を行いましょう。

PAC使用時の水質管理とpH調整のポイント

PACを使った凝集処理では、水質管理上とくにpH(ペーハー)管理が重要になります。先述したようにPAC自体が酸性であり、投入すると処理水のpHを低下させる作用があります。適正な凝集が起こるためにはpHの範囲があり、また最終的に放流する水のpHは環境規制値(日本では5.8以上8.6以下など)を満たす必要があります。そこでPAC使用時には以下のポイントに注意してpHを調整・管理します。

  • 凝集反応に適したpH範囲: アルミニウム系凝集剤が最大の効果を発揮するpHはおおむね中性~弱アルカリ性(pH6~8程度)です。pHが低すぎるとアルミニウムが溶解してしまい凝集沈殿しにくく、逆に高すぎると生成する水酸化物が過度に大きくなり安定しない傾向があります。PACの場合、硫酸アルミよりも広いpH領域で効果を発揮しやすいとされていますが、それでも原水が極端に酸性・アルカリ性の場合は中和してから投入したほうが効率的です。また処理過程でpHがどんどん下がっていくようであれば、途中で中和剤を適宜添加してpHを凝集に適した範囲内に保つよう調整します。
  • 中和剤の併用: PAC投入後の水のpHを調整するには、一般に苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)や石灰乳(消石灰のスラリー)などのアルカリ剤を用います。排水処理ではPAC→中和剤→高分子凝集剤の順で添加するのが典型的なフローです。たとえば酸性が強い塗装廃液を処理する場合、PAC投入でpHが4以下になってしまうことがありますが、そこへ苛性ソーダを投入してpH7前後に戻すことでアルミニウムの凝集性能を十分に引き出します。このようにPAC投入→pHチェック→必要に応じアルカリ添加というステップを踏みながら処理条件を整えていきます。
  • pHと凝集フロックの関係: 凝集中はpHだけでなくアルカリ度(緩衝能)も関係します。原水のアルカリ度が低い(炭酸塩などの緩衝物質が少ない)場合、少量のPAC投入でも急激にpHが下がりやすくなります。その結果、適正pH範囲を外れてフロック形成が不十分になる恐れがあります。こうした場合にはあらかじめ原水にアルカリ剤を加えてアルカリ度を補っておくことや、塩基度の高いPAC製品を使ってpH低下を緩和するなどの対策が有効です。逆に原水が強アルカリ性の場合、PACを入れてもなおpHが高すぎて凝集しないケースがあります。その際は少量の酸(硫酸や塩酸)で予めpHを下げてからPAC処理を行うこともあります。
  • 処理後のpH確認: 凝集沈殿処理を経て得られる処理水(上澄み)は、放流基準を満たすpHに調整されていなければなりません。凝集過程で中和剤を加えている場合は、大抵適正範囲に収まりますが、最終的には計測機器や試薬できちんと確認します。必要であれば最終水槽で微調整を行います。特に河川放流の場合は環境への影響が大きいため、pH5.8〜8.6の範囲(地域で定められた基準値)に厳守するよう管理します。pH管理が不十分だと、せっかく他の項目(CODやSS)が良好でも放流できなくなるので注意が必要です。
  • 季節変動への対応: 冬季は水温低下により凝集反応が鈍くなるだけでなく、溶解しているCO2量の変化でpHやアルカリ度も変動しやすいです。寒冷地ではPAC溶液自体の保温や濃度管理も大切ですが、処理プロセスのpH変化が季節で変わることも意識しましょう。必要に応じて冬場は中和剤量を増やす、反応時間を延ばす、高塩基PACに切り替える等の対策で安定運転を図ります。

以上のように、PAC使用時の水質管理ではpHのモニタリングと調整が要となります。ポイントを押さえて言えば、「PAC投入で酸性に傾きすぎないようにし、凝集に適した中性付近を維持する」こと、そして「最終的に規制範囲内のpHに収める」ことです。これらを徹底することでPACの凝集効果を最大限に引き出しつつ、安全な排水処理を実現できます。

PAC処理後の汚泥処理と廃棄物管理

PACを用いた凝集処理では、処理の結果として汚泥(スラッジ)が生成されます。汚泥にはPACの有効成分であるアルミニウムの水酸化物に加え、凝集除去されたSSや有機物、場合によっては重金属やリンなどの沈殿物が含まれます。この汚泥を適切に処理・処分することも排水処理プロセスの重要な一環です。

PAC使用時の汚泥管理におけるポイントをまとめます。

  • 汚泥の特性: PACで生じた汚泥はアルミニウム系化学汚泥で、多くの場合は沈降性が良く比重の重い泥です。他の無機凝集剤(硫酸鉄系など)に比べて含水率が低めで扱いやすい傾向があるとの報告もあります。ただし、高分子凝集剤を併用した場合はポリマー由来の水分を多く含みゼリー状に近い軟らかい汚泥になることもあります。汚泥の固形分濃度(含固率)は処理条件によって様々ですが、一般に沈殿直後の生汚泥では1~3%程度の固形分しかなく、97%以上は水という状態です。このままでは体積が大きく運搬・処分が非効率なので、濃縮・脱水によって量を減らす必要があります。
  • 汚泥の脱水処理: PAC処理後に沈殿池底部やフロックタンク等に溜まった汚泥は、ポンプ等で引き抜いて脱水装置にかけます。代表的な脱水装置にはフィルタープレス(圧搾脱水機)遠心分離脱水機ベルトプレスなどがあります。これらにより汚泥中の水分をしぼり出し、含水率を70~80%程度まで下げた脱水ケーキを作ります。PAC汚泥は比較的脱水しやすい方ですが、より効率を上げるために高分子凝集剤(脱水助剤)を加えることも一般的です。アクトの無機凝集剤「水夢(Suimu)」シリーズでは、生成するフロック粒子が大きく含水率が低いためろ過がスムーズに行えるとの特徴が報告されています。こういった凝集剤を選ぶことで脱水工程の負担を軽減し、最終汚泥量を減容化することが可能です。
  • 汚泥の分類と処分方法: PAC処理で生じた汚泥は法律上は産業廃棄物(汚泥)に該当します。自社で勝手に埋め立てたり河川に投棄することは厳禁で、必ず産業廃棄物処理業者に委託して適正に処分しなければなりません。脱水ケーキ状に固めた汚泥は、セメント原料にリサイクルされたり、埋立処分場で処分されたりします。重金属を含む場合は安定固化処理された上で管理型処分場に埋設されることもあります。いずれにせよ、処理後に残った汚泥は最後まで責任を持って管理することが求められます。
  • 汚泥処理コスト: 汚泥の処理・処分にはコストがかかります。そのため汚泥発生量をできるだけ減らすことが経済的にも環境的にも望ましいです。前述のように、PACを使用すること自体が硫酸アルミ使用時に比べ汚泥量削減に寄与します。さらに、凝集剤の適正投与(過剰投入しない)や脱水助剤の活用、汚泥濃縮槽の設置などで含水率を下げる工夫が有効です。最終的な汚泥量(トン数)が減れば産廃処理費用の削減につながります。例えば、ネクストリー社の報告ではPACへの切り替えで「汚泥が出にくく産廃費用の削減に貢献する」とされています。これはPACの使用量が少なくて済み薬剤由来のスラッジが減ること、フロックの脱水性が良いことによるメリットです。
  • 安全管理: PAC汚泥にはアルミニウムや分離除去した有害物質が含まれる場合があります。特に重金属が含有する汚泥は溶出試験で基準を満たさないと埋立処分できません。また汚泥は長期間放置すると腐敗して悪臭を放つ恐れもあります。適切な頻度で汚泥を引き抜き、新鮮なうちに脱水・処分することが望ましいです。汚泥を扱う際は保護具を着用し、飛散・流出させないよう注意します。万一汚泥やPAC薬品が漏洩した場合は、消石灰等で中和しつつ回収するなどの対処が必要です。

以上がPAC処理後の汚泥処理・廃棄物管理の概要です。PACを使うと汚泥が発生するのは避けられないので、それを効率よく減容・脱水し、適法に処分することが大切です。コスト面では汚泥処理費も含めてトータルで考える必要があります。PACを賢く使って汚泥発生量自体を抑えつつ、発生した汚泥も迅速に処理して、環境に負荷を残さない運用を心がけましょう。

コスト効率を考慮したPAC選定と運用方法

PACの導入を検討する際には、薬剤費用だけでなく総合的なコスト効率を考えることが重要です。ここではPACの選定・運用にまつわるコスト面のポイントを整理します。

  • 薬剤単価と必要量のバランス: すでに述べたように、PACは硫酸アルミニウムより単価が高めですが、必要量が少なくて済むためトータルコストでは有利になる場合があります。例えば硫酸アルミを100の量使っていたところをPACなら50で済むとすれば、仮に単価が2倍でもトントン、3倍以内ならむしろ安上がりです(実際の単価差は2倍もしないことが多いです)。さらにPAC使用によって中和剤や汚泥処理費が削減できれば、その分も経済効果としてカウントできます。一方、処理水質によってはPACより安価な薬品で代用できるケース(たとえば水が温かく安定していて硫酸アルミでも十分凝集できる場合)もあるため、単純な薬剤費比較にとらわれずケースバイケースで費用対効果を検討することが大切です。
  • PAC製品の種類選定: PACにはメーカー各社から様々なグレードの製品が出ています。アルミナ濃度の違い、塩基度の違い、不純物や共存イオンの違いなどで性能や価格が変わります。例えば、多木化学の製品であるPAC700A(塩基度70%)は高塩基度ゆえに低温・低アルカリ度条件下でも凝集効果が高く、トータルコスト削減や作業性向上、環境負荷低減に貢献すると謳われています。このように水質に合わせて適切なPACを選ぶことが重要で、高性能品は値段も少し高めですが、結果的に投入量削減や安定運転によりコストメリットをもたらす場合があります。逆に水質が単純であれば標準的なPACで十分なため、高価な特殊品を使う必要はありません。各社のカタログや技術資料を参照し、自社の排水特性にマッチしたPACを選定しましょう。
  • 運用面での工夫: PACを効果的かつ経済的に使うには、運用方法の工夫も欠かせません。例えば撹拌条件の最適化は薬品効率に直結します。適切な急速撹拌でPACを素早く原水に分散させ、その後ゆっくり混和することで、少ない薬量でも高い凝集効果を引き出すことができます。撹拌が不十分だとフロックができにくく薬品の無駄遣いになりますし、逆に強すぎるとせっかくできたフロックが壊れて二度手間になります。現場経験では「凝集処理は撹拌が命」と言われるほどで、薬品と同じくらい撹拌条件の最適化が処理コストを左右します。また前述の自動薬注制御の導入も、省力化と薬剤節約に寄与します。初期投資は必要ですが、長期的に見ると薬剤の無駄打ちを減らし人件費も削減できるため、大規模プラントでは検討する価値があります。
  • 汚泥処理コストの把握: 薬品コストだけでなく汚泥処理費用も含めて経済評価することが大切です。仮にPAC採用で薬品費が月数万円上がったとしても、汚泥量減少で産廃処理費がそれ以上に下がればトータルではプラスになります。汚泥処理費用は往々にして見落とされがちですが、凝集剤選定の大きなファクターです。実際に、PACに切り替えたことで「薬品代は少し増えたが汚泥が出にくくなり廃棄物処理費が大幅に下がった」という例もあります。自社排水の場合、1日当たりどの程度の汚泥(乾燥重量)が発生し、それにいくら処理費がかかっているかを把握し、薬品変更による変化を試算してみるとよいでしょう。
  • トラブル時のコスト: 凝集処理が不調に陥り基準不適合などのトラブルが起きると、緊急対応や追加処理にコストがかかります。PACのメリットの一つは水質変動に対する安定性が高くトラブルが少ない点です。例えば原水の濁度や負荷が急変した場合でも、高塩基PACなら許容範囲が広いのでフロック崩壊しにくい、といった強みがあります。結果として安定運転によるリスク回避が経済的メリットにつながります。逆に、PACは複数のタイプを組み合わせて使うこともあり、原因特定や調整が難しいというデメリットも指摘されています。不具合時の対応コストも考慮すると、現場になじんだシンプルな薬剤構成が良い場合もあるため、その点も含めて総合判断します。

総じて、PACのコスト効率を考える際には「薬剤費+補助薬品費+汚泥処理費+運用安定性」をトータルで捉えることが重要です。安価な薬剤でも量が多くなれば高コストになりますし、高価な薬剤でも少量で済めば低コストです。PACはその意味で単価は高めでも総量を減らせる凝集剤であり、多くの現場でコストダウンに寄与してきました。自社で試算する際は、ぜひ広い視点で費用対効果を比較検討してみてください。

アクトのPAC活用による凝集処理最適化事例

最後に、水処理専門企業である株式会社アクトにおけるPAC活用の最適化事例をご紹介します。アクトでは長年にわたり様々な産業廃水の浄化に取り組んでおり、PACをはじめとする凝集剤の選定・応用に豊富な実績があります。その中でも特に、同社オリジナルの無機系凝集剤シリーズ「水夢(すいむ)」を活用した事例を紹介します。

「水夢(SUIMU)」シリーズは、アクトが開発・製造する無機系凝集剤で、ゼオライトなど複数の無機化合物をブレンドした粉末タイプの凝集剤です。基本的な働きはPACと同様に凝集沈殿による汚水浄化ですが、大きな特徴はその品番(種類)の多さにあります。一般的な凝集剤メーカーは数種類の製品しか持たないことが多い中、アクトの水夢シリーズは用途別・汚水性状別に非常に多くのバリエーションが用意されています。これは長年にわたり顧客の要望に応じて配合を微調整し、多種多様な廃液に対応できるラインナップを揃えてきた結果だといいます。たとえば、水性塗料やインクの処理に特化したタイプ、セメント・コンクリ排水向けのタイプ、食品工場排水向けのタイプなど、同業他社には例を見ない豊富な品番が揃っているのが強みです。

アクトではまずお客様の排水サンプルを預かり、社内の実験設備で無償の処理テストを実施します。数ある水夢シリーズの中から最適な品番を選定し、ときには要望に応じて配合比をカスタマイズする柔軟な対応も可能です。こうしたきめ細かなサービスによって、「他社製品では処理が難しかった排水が水夢でクリアになった」という成功例が多数あります。

実際の事例として、水性塗料・インキ製造工場の廃液処理に水夢が採用されたケースを挙げます。従来、塗料やインクの廃液はVOC(揮発性有機化合物)を含む有機溶剤系が多く、その処理は困難でした。しかし環境規制の強化で水性塗料が普及し始めると、新たに水性塗料用の凝集剤が求められるようになりました。アクトの水夢はまさにこの用途向けに開発され、水性塗料・インキ・ボンドなどあらゆる廃液処理で高い効果を発揮しています。水夢を汚濁水に投入・攪拌するだけで、液中の顔料や樹脂分がみるみる凝集して沈み、上澄みは透明な水になります。処理後の水は下水に直接放流できるほど汚濁成分が低下し、一方で凝集した塗料カスは固形物として分離できるため、それまで廃液丸ごと産廃処理していたものが水と固形物に分離され、産廃量を大幅削減できました。ある工場では水夢処理に切り替えた結果、年間の産廃処理量が劇的に減り、処理コストも大幅ダウンしたとのことです。

水夢シリーズのもう一つの利点は、生成するフロック(沈殿物)の脱水効率が良いことです。一般的な高分子凝集剤で処理すると、得られる沈殿物はゼリー状で含水率が高く、ろ過脱水に時間がかかります。しかし水夢で得られる沈殿物は粒子が大きく水分含有が少ないため、フィルタープレスでの脱水がスムーズに行えます。実際に脱水ケーキの含水率が下がり、運搬すべき汚泥重量が減ったという報告もあります。さらに水夢にはpH調整機能もあり、凝集と中和を同時にこなすことで従来必要だった中和工程を省略できる可能性があります。薬品工程が減ればその分オペレーションも簡略化でき、トータルのコストや手間の削減につながります。

環境面でも、水夢は水生生物への影響試験で他社製品より良好な成績が出ており、鯉や金魚が泳ぐ池の浄化にも利用されています。これは水夢に含まれる成分が中性に近く、処理後水の残留アルミ濃度なども低く抑えられるためと考えられます。凝集剤というと環境負荷が懸念されがちですが、アクトの水夢は環境に優しい凝集剤として評価されているわけです。

以上、アクトの事例から学べるのは、過去データからの知見を活かした凝集剤選定ときめ細かな対応が処理の最適化に大きく寄与するということです。PACひとつをとっても、その配合や種類によって性能は変わります。アクトのように多数の凝集剤レシピを持ち、実水テストで最適解を導き出す手法は、確実かつ無駄のない凝集処理には欠かせません。凝集剤の選定に迷ったら、信頼できる専門企業に相談し、自社にピッタリのPACや凝集剤を提案してもらうのも賢明な方法と言えるでしょう。

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